あめ
@tsujisaki
2020.4.18
朝からあめが降っている。
重たい体を引きずりながら、布団から出たのに窓の外は暗かった。
気持ちを切り替えて会社に向かう支度をしようそう思った時だった。
あめが降ってきたのは。
吐息が漏れた。
吐く息は白い。
どうなったところで時間は待ってはくれない。
支度してさっさと出かけよう。
仕事が手につかない。
何をやっても気が乗らない。
ミスだけはしないように、ゆっくりでも正確にパソコンに向かった。
「どうかしました?」
隣の席の後輩が声をかけてきた。
彼は若くていつも元気だ。
私がどんなに厳しいことを言っても落ち込まずまっすぐに受け止める。
それはスポンジのように。
「なんだかここ最近の疲れが天気のせいもあって出たのかも」
嘘をついた。
天気のせいなんかではない。
正直仕事なんてできる状態でない。
何かしていないと見失ってしまいそうになる。
「でも大丈夫。ほどほどにして今日はさっさと帰るね」
昨日3年付き合っていた彼氏に私から別れを告げた。
彼には結婚の意思はなかったのだ。
私は自分勝手だが、子どもが欲しい。
彼との子どもも望んでいた。3年間待っていたが何もなかった。
だから聞いた。結婚する気はあるのか。
あめが降ってる音が響いている。
このままあめは止まないのだろうか。
「お先に失礼します。
先輩、早く帰った方がいいですよ。」
「そうね。そろそろ切りをつけるわ。」
「僕じゃダメですかね?」
「・・えっ。」
「いえ、なんでもないです。お疲れ様でした。」
本当は聞こえていた。
その言葉を聞いて確信した。
あの人でないとダメなのだ。
あの人とずっと一緒にいたかった。
あの人とずっと生きていたかった。
あの人の子どもが欲しかった。
あめはまだ降っていた。
腹が立った。
あめはいろんな色をしている。
赤、青、黄色・・・
人の気も知れないで、全部悲しい色になってしまえばいい。
傘を取り出して、開こうと下を見た。
「ねぇ、やっぱり俺お前と一緒に生きていきたい。
結婚しよう。」
何よりも先に、傘を片手に駆け出していた。
あめは甘い味がした。
あめ @tsujisaki
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