第43話 お泊まり会と〇〇〇〇餃子②
悲愴感漂うキッチン。
異変に気がついたのか、テーブルを拭いていたラビが急いでこちらにやってくる。
「どしたの?」
「それが......」
たどたどしく状況を伝える宇佐美さん。
すべて聞き終えたラビは、笑いそうになる口元を必死に押さえ、ついには瞳をうるうるさせて。
「じゃあ、ゲームしましょうよ」
震える声で提案した。
「ゲーム?」
「ラビたちが食べて、誰がそのたけのこ餃子を食べたのか、ねえねに当ててもらうの。もし不味くても、美味しいフリをして」
「ええ......それは申し訳ないよ」
Tシャツの裾を引っ張り、視線を落とす宇佐美さん。確かに、自分の失敗作を無理やり食べさせるようで、いい気はしないだろう。
渋る姉に、ラビはそうねえ、と考え込む。
「もしねえねが当てたら、食べた人がひとつだけ言うことを聞いてくれるってのはどう?」
「言うことを、聞いてくれる?」
「そ。その代わり、当てられなかったら、ねえねが食べた人のお願いをひとつだけ聞くの」
「宇佐美さんが......?」
「魅力的でしょ?」
思わず反応してしまった。
ラビはいいでしょうと言わんばかりに、こちらを見てくる。こいつのこういう発想はズルいと思う。
こうして地獄のたけのこロシアンルーレットは幕を開けたのである。
なお、餃子の数が少ないと見破る側に有利だということで、材料分の餃子を全員で作った。もちろん宇佐美さんのぶんは分けて。
ミキは初めて作るらしく、皮を破ったり、具がはみ出したりとかなり苦戦していたが、最後には納得できるものができたらしく、誇らしげに宇佐美さんに見せていた。
「いただきます」
焼き上がった餃子を前に手を合わせる。
ラビと交代で焼いたのだが、なかなかに上手く焼けた。傍目にはチョコスナック入り餃子が混ざっているようには見えない。
さっそく、箸でひとつ持ち上げて。
まさか、一発目から引き当てるなんて、そんな奇跡的なことは起こらないだろ......
「うっ、......まい」
「うん、なかなかイケるわね」
「美味しいです」
パリッと焼けた皮。
口の中で弾ける肉汁。
そして、じんわり、じんわりと主張してくる甘味。それが舌の上で、カカオとニラの最悪のハーモニーを奏でる。おまけに、湿気たクッキー生地がキャベツと絡み合って。
想像以上に、不味い。
「なんだか、怪しい」
疑惑の目を向ける宇佐美さん。
俺は隣のミキに倣って、一個、二個と餃子を放り込むが、口内の違和感は消えてはくれない。
罪滅ぼしか、ラビがうーんと口の端を下げる。あたかも今食べたのがハズレだったかのように。
だが、そんな演技は無駄だ。
「犬山さん、ですね?」
ズバリ言い当てる。
がっくりうなだれる俺を見て、宇佐美さんはやったあ、と喜ぶ。それから、ぱくりと目の前の餃子を食べ、勝者らしくニヤリと笑う。
「罰ゲームは、考えておきますね」
「......はい」
どうやら俺にはゲームだの、演技だの、向かないらしい。猫にたけのこの里を与えようとするミキを止めつつ、またひとつ餃子を頬張る。
こんな楽しそうな宇佐美さんを見れたのだから、よしとするか。
食べ終わったあとは、帰りたくないとぼやくミキを家に送り届け、ついでにコンビニで明日の朝食も買って。部屋に戻るころには、すっかり夜も更けてしまっていた。
宇佐美さんの部屋のチャイムを鳴らすと、パジャマに身を包んだラビが出てきた。
なぜラビが、と思ったが、俺が出ている間に宇佐美さんは風呂に入り、そのまま眠ってしまったらしい。
ラビに勧められるまま、俺も風呂に入り、床に横になった。
ラビと宇佐美さんが布団に、俺が床に、持参したブランケットを被って、という形だ。
「可愛い寝顔ね」
「ああ」
「おっさんも、おやすみ」
「おやすみ」
挨拶とともに電気が消える。
隣には宇佐美さん。
穏やかに胸部が上下していて。
今日も充実した一日だったと感慨に
すると、そばでもぞもぞと動く音が。
「犬山さん」
「ごめん、起こしたか?」
「いえ、そういうわけでは」
「......?」
「願いごと、決めました」
宇佐美さんは顔を布団で半分隠して、恥ずかしそうに続ける。
「わたしのはじめて、もらってください」
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