超絶美少女なお隣さんが俺ん家の風呂を借りにくる

もあい

第1章 お隣さん、風呂を借りる

第1話 無防備な女子高生はお嫌いですか?①



「あ、あの、服を脱ぎたいんですけどっ」



 緊張で上擦った声。

 制服姿の少女が風呂場を前に、こちらをじっと見つめている。


 抱きしめるようにして持つ着替えの間からは水色の下着がちらり。膝をもじもじとさせ、恥ずかしさに必死に耐えているようだった。



「そ、そうだよな、ごめん」



 俺は急いで奥へと引っ込んだ。


 特段、悪いことをしたわけではないのに。

 ふつふつと罪悪感が。


 これは善意だ。

 決してよからぬ考えはない。


 そう思っても、意識は風呂場へ向かう。

 微かに聞こえる衣擦れ。

 ジジ、とファスナーを開ける音。


 平常心だ、平常心。

 ローテーブルの脇に座り、まぶたを閉じる。


 俺は少女を受け入れたことを、少し後悔し始めていた。しかし、断ることもできなかった。十数分前、少女は本当に困っていたのだ。



***



「じょ、女子高生はお嫌いですか?」



 ドアを開けると美少女が立っていた。


 制服からして、近くの高校の生徒。少女は長い黒髪をなびかせて、遠慮がちに問う。


 俺はほとんど反射で、大好きです、と答えていた。それを聞くや、少女が大きく後ずさる。



「や、あの、違うから、別にそういう意味じゃ……ていうか、聞いといて引くのはやめてくれ」



「ご、ごめんなさい、緊張してて」



 弁明しながら、髪を耳にかける少女。

 顔の隠れていた部分が露わとなる。


 目を惹くのは、明るい茶色の瞳。優雅に上下する長い睫毛が、白い肌に影を落とす。


 小ぶりな鼻はなんとも可愛らしく。ぎゅっと閉じられた唇も桃色で、ぷっくりと魅力的。


 そんな少女がなぜか頰を上気させて。

 瞳まで潤ませて。



「こんなお願いするの、初めてなんです」



 あまりに艶かしく、そう言うものだから、俺は思わず喉を鳴らした。


 ......こんな子が、俺みたいな冴えない男にいったいなんの頼みがあるというのだろう。



「お風呂、貸してほしいんです」



「お、お風呂?」



「わ、わたしの部屋、お風呂が壊れちゃったみたいで」



 予想外のことに少々戸惑う。

 そんな俺の反応に、少女はさらに頰を赤くして、仔細を説明し始めた。


 それによると、隣の部屋に住むこの少女は事情により、親元を離れて生活しているらしい。


 今日は金曜日。学校が終わり、帰宅したところ、風呂の蛇口からお湯が出ない。



「一応いろんなところに電話してみたんですけど、修理は一週間後だって言われちゃって」



 そう俯く少女。

 相当慌てたのだろう。

 額には薄ら汗までかいている。



「でも、どうして俺のところに?」



「それは、その……」



 風呂が壊れたなら、友人を頼ればいい。

 その見た目なら、女子にもさぞ人気があることだろう。


 もしそれが無理でも、銭湯に行けばいい。

 わざわざ隣の部屋のドアをノックして、見ず知らずの男に頼むことはない。


 なにも考えずに問うと、少女は言いづらそうに唇を噛んで、それからぽそっと。



「すっごく恥ずかしいですけど、お金が、なくて……」



 そう溢した。


 俺が悪いわけではないが、うら若き乙女にそんな恥部を言わせてしまった。胸に湧く、少しの罪悪感。



「まあ、風呂ぐらいなら別に」



 気がつけば、そう答えていた。

 顔をパッと上げて、喜ぶ少女。


 あんまり綺麗じゃないけど、と言うと、構わないと首を振る。ありがとう、ありがとうと頭を下げる少女。


 もとより、こんな必死な彼女を放っておくことなどできるはずもなかった。



「どこで、服を脱げば……?」



「あー、脱衣所つくってないんだ。適当にそのへんで」



 少女を部屋に入れる。

 隣に住んでいるだけあって、部屋の構造は分かっている。すぐに風呂場へ目を向けると、最大の問題点を指摘した。


 風呂場は玄関から入って、すぐ左手にある通路から入れるのだが、その前にはドアも仕切りもなく、ただ備えつけの洗面台しかない。


 つまり、服を脱ぎ着しているときに、誰かが前を通過すれば丸見え、ということだ。


 普通はのれんなどで目隠しをつくって、見られないようにするのだろうが。男の一人暮らしだ。なにを隠す必要があるのだろう、とそのまま暮らしていた。



「いや、絶対に見ないから」



「そう、ですよね」



 状況が状況なだけに心配したのだろう。

 ちらりと疑いの目を向けられ、俺は素早くその可能性を否定する。


 そして少女に追い出されるようにして、奥に引っ込んだのである。


 建てつけの悪い戸を引き、リビング代わりに使っている部屋に入る。


 3DKのこのアパートは、築四十年と古いため家賃がかなり安い。部屋は四.六畳が二つと六畳が一つ。一人暮らしにはもったいないほどの広さだ。多少ボロかろうが、壁が薄かろうが、文句は言えまい。


 一切の感覚を遮断するため、俺は目を閉じた。やましさなど決してない、と。


 しかし、そんな俺の心をあざ笑うかのように、後方でガタガタと戸が開く。



「……へ」



「あ、あ、あの、あまり見ないで、聞いてください!」



 振り返れば、少女が隙間から顔を覗かせていた。壁に小さな手を添え、周囲を気にする様は、さながら小動物のよう。


 というか、その肩に見えているのは、まさか下着の紐......!?



「バ、バスタオルを忘れてしまって」



「あ、ああ、バスタオル」



 すぐに察した俺は、洗面台の横にあるタオルを使うように言った。少女はぺこぺこと頭を下げて、戸の向こうへ消えていった。


 ......なんで、下着姿。


 服を脱いでから、忘れたことに気がついたのだろうが、無防備すぎる。



「白い、紐だったな」



 つまりブラは白か。


 ふと、少女の制服姿を思い浮かべる。

 白シャツに紺のスカート。確か、上にベージュの薄いカーディガンを羽織っていた。


 それから、襟元のチェックのリボンを押し上げるシャツの下の膨らみ。あのボリューム感。最近の高校生は肉づきがいいというが。


 清純な少女の白下着姿を想像してしまい、俺はいかんいかん、と頭を振った。


 平常心だ、平常心。


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