第19話 光

 鉄格子のところには、1メートルほど壁から飛び出た足場があった。この突起した部分が死角になって、空気口兼出口に当する鉄格子が下から見えなくなっていた。

 鉄格子自体は高さが1メートル、幅4〜5メートルほど。南京錠が掛かっておりこの鍵を解けば幅1メートルほどの扉が開く。そしてこの部屋をプリズンブレイクできる。


 水位が足場に到達したので、ハルカとマイクは久し振りに地面に立つことができた。だが喜んでいる暇はない。


『海水がこの部屋を満たせばゲームオーバー』


 それまでになんとか南京錠を解く必要があった。


 2人は言葉を交わすことなく、それぞれで鉄格子周辺の謎解きのヒントを探し始めた。


 鉄格子に文字が張られていないか?

 壁は?

 南京錠の裏は?そもそももうすでにロックが解除……は流石にしてないか。


 ヒントが見つからない。これは骨が折れそうだ。


 少しづつ水位が上がっていく。


 どうしよう……このままじゃ……

 冷え切ったはずの身体から汗が流れる。考えるには時間が足りない。

 時間が無限にあれば、最悪0000から9999まで試せる。


 時間が欲しいー


 水位が膝の高さまで来た。


 一か八か、これしか無いか。


「へいシーリ、脱出アプリ起動して」

 ハルカが防水加工したスマホに話し掛ける。スマホは脱出アプリを起動する。


「フゥー、フゥー、フゥー」

 ハルカは3回大きく深呼吸し……水の中に飛び込んだ。


「Wait! Where are you going?(待て、どこへ行くんだ)」

 ハルカは海に飛び込んでしまった。



 一か八か、これが成功すれば時間を稼げる。

 ハルカは海底を目指す。


 素人の人間はヒレ無しでどれくらい潜れるのか?海女さんだと3分間で10数メートルを潜るらしい。

 酸素、そして水圧も忘れてはいけない。素人ではあったが、耳鳴りがしたので唾を飲み込んだ。耳抜きとして理想的な対応だ。

 あとは無駄なことを考えて酸素を消費しないよう、無心になって海底を見つめ足と手を動かす。目指すは油性で書いた「てつ」の部分。


 あと少しだ。ここからはもう手を伸ばす。脱出アプリが届く様に。

 脱出アプリが壁を開いたのであれば、逆に閉じることも出来ないだろうか?つまり水門を閉じれば、もう海水は入ってこない。


 お願い、起動して。


 ピッ


 小さな電子音が部屋の底で鳴り響いた。


 ゴゴゴゴゴゴ……


 音を聞いて成功を確信した。水門は閉じ始めた。


 ハルカは振り返ることなく引き返す。息は限界だ。

 苦しい。苦しいけど、あとは海面に戻るだけ。光のある方へ向かう。


「プハァーッハァハァハァハァ……」

 戻ってこれた。それに、一か八かだったけど水門を閉じれた。これで時間をたっぷり使える。


「Hey,Haruka. Are you OK?(おい、ハルカ。大丈夫か?)」

 マイクが手を伸ばしてくれた。呼吸を少しづつ整えながら足場に登る。腰を下ろしたかったが、水位がハルカの腰元まで上がっていたので、立ったまま腰に手を当て息を整える。


「ハァ、ありがとハァ、マイク、ハァ……ハァ閉じて……ハァきたから……ハァもう大丈夫」

 スマホの脱出アプリを見せる。マイクは少し困った顔をしていたが、すぐに理解した。「Congratulations!(よくやった)」と言って頭を撫で、労をねぎらった。



「実は、もう1個土産があるんだけど……見てルック!」

 息を整えたハルカは、天井を指差した。正確には鉄格子の真上。


 あれは……電球か?


 何故かその部分だけ電球が並んでいた。それも複数。他の天井の角には何も無い。


「Why is there a part where electricity is turned off intentionally?」

「なんで、ワザとらしく電球が消えている部分があるの?って話」


 天井に横一列に並ぶ電球は、半分ほどの電気が消えていた。1個や2個程度ならば故障かと思うが、この数はワザとらしすぎる。しかも規則的ではなくランダムな並びだ。


「これが最後の謎解きってことだよね?」


 規則的に並ぶ電球。数えてみると14個。しかし不規則にON/OFFが並んでいる。

 この14個の電球の暗号が……南京錠の4桁の暗証番号。きっとそうだ。


 点いている電球を『○』、消えている電球を『×』とすると……

 ーーーーーーーーーー

 ×○××○×○×○×××○○

 ーーーーーーーーーー


「How easy……(なーんだ。簡単じゃねえか)」

 マイクがニヤリと微笑む。

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