第18話 天井
二人は奥の部屋に移動した。この部屋の上層に行けば出口がある、そう信じて。
「フーッ,フーッ」
首と手首を回し、準備体操をしながら待機するマイク。緊張のせいか呼吸が荒くなる。
「リラックス、リラックス。ちゃんと浮くから大丈夫」
緊張するマイクに対してハルカは落ち着いていた。水位はもうハルカの腰、マイクの膝の上まで登ってきている。
実はマイクは泳げなかった。そういう機会が今まで一度も無かったのだ。
一方のハルカは日本の義務教育のおかげで、25mくらいなら泳げる程度だ。
なのでここからは、多少泳げるハルカが仕切ることになっている。
ハルカの足が浮いた。
「リラーックス、リラーックス」
「Amazing……(すげぇ……)」
この作戦を立てた時、ハルカに泳ぎ方と楽な姿勢をレクチャーしてもらったが、本当に脱力しただけで浮いている。船は縦だと沈むけど、横だと沈まない。人間も同じで横向きで面を広げれば沈まない……理屈では分かっていたけど、実際に目の当たりにすると感動する。
「Lets!(よし)」
そろそろマイクも足がつかなくなってきたので、ハルカの様に浮くことにした。練習は出来ないのでぶっつけ本番。
マイクの手元には、先ほど使用した靴下ハンマーがあった。靴下の中には空の水筒。海水で浮くので「使ったら?」とハルカに言われたので、ギュッと離さないように握っている。今は命綱。
浮く時はこの水筒を浮き輪がわりにして、ヘソに持ってきて、ラッコの様に……
下半身が徐々に浮いてきた。こんな感じか!……と油断した瞬間、顔に水が掛かった。思わず手と足をバタつかせる。ヤバい……溺れる!
「he……Helぷ」
バタバタと音を立て、溺れるマイクに気付き、すぐ泳いで駆けつける。
「リラックスって言ったでしょ?リラックス!」
マイクの手首を強く握って暴れ馬の手綱を握る。
「私が握っててあげるから大丈夫!ほら」
片手でマイクの腕を握りながら、もう片方の手と足で泳ぐ。マイクにお手本を見せる。
「ほら、
もう一度仰向けで浮く。
ハルカのおかげで落ち着いたマイクは、息を整え、もう一度挑戦する。
目線は天井。手も足も肩も首も全部力を抜く……
浮いた。
大きく喜びたいが、また力が入ると溺れそうなので、ニヤリとスマイルだけにする。
ゆっくりとだが、徐々に天井が近付いている気がする。
何も考えず、無駄な体力を消耗しない様に脱力しながら、海水が自分を出口まで運んでくれることを信じて、何もない天井を見つめる。
泳げない方のマイクが海水を克服できた事を察し、泳げる方のハルカは観察に入る。
仰向けの姿勢を解除し、平泳ぎの
(あっ……本当にあった)
壁の一部が鉄格子の様なもので穴が空いていた。まさしくこれが空気穴であり、正真正銘の出口。
早くマイクにも教えてあげたいが、今教えるとまた溺れそうで厄介だ。あの高さまでだと、もう少し水位が欲しい。
そして、ついに……出口に手が届く高さに来た。
「え……?これって……」
海水の冷えた身体が更に冷える様な悪寒がする。
鉄格子に鍵。
鍵は南京錠。必要なのは4桁の暗証番号。
ここに来てまた謎解き。
制限時間はどれくらい?海面がどんどん上昇する。
部屋が水一杯になったら……息はどれくらいもつ?
○
。
。
ヤバい。
どうしようドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウオボレルドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウシヌドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウドウシヨウシニタクナイ
真っ白になった頭の中を、複数の筆が乱暴に線を書き乱し、掻き
お願い……時間は有限。ワタシの頭、冷静になってよ!
過呼吸が止まらない。身体が溺れない様に、生にしがみつこうとするから、激しい動きで益々心拍数が上がる。耳が心臓の音で埋まる。
「What's happend?(どうしたんだ?)」
マイクがハルカの異常に気付く。
マイク……そうだ、マイクがいる。ワタシは1人じゃなかった。
目を瞑る。身体の緊張を解き、ゆっくりと息を整える。
少し冷静になれた。
「マイク、ヘルプ!ルックアットミー」
とにかくこの状況、マイクに見てもらわないと。
仰向けのマイクの手を握り、無理やり上体を起こす。
「ほら、ルック!
指を差し、すぐに状況を知らせる。
「Also……There was an exit(やはり、出口は存在したのか)」
だが、鍵が掛かっている。パスワードが必要なのか。
そしてハルカが動揺していたワケ……この部屋の水位がどんどん上がっているので、早くしないとこの部屋が海水でいっぱいになって俺たちは溺死してしまうというワケだな。
ヒントは必ずあるはず……
冷静に考えろ……神経を研ぎ澄ませ……
水位が鉄格子に達した。
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