第12話 相棒
(何その流暢な英語。早くてワケわかんねぇよ。)
(この中国人は中学生の女の子か? スペイン語ならまだなんとかなるが、中国語は分からんな。
しかし学生の子なら、簡単な英語は通じるか……?)
二人は視線がぶつからない様に見つめ合い、お互いを探る。
「Unnn… I am...」
ここは男、しかも年上の自分から行くべきだろう。マイクが先に沈黙を破る。
「アイム、マイク。アイムアメリカン」
マイクはハルカに警戒を持たれない様に、胡散臭くならない程度のスマイルと優しいジェスチャーを加え、言葉(英語)が通じる様にゆっくりと語り掛ける。
「あ、うん。えーっと、マイネームイズハルカ、ナイストゥーミートゥー。アイアムジャパニーズ」
英語はある程度分るはずだが、喋る機会が無いので咄嗟に英語が出てこない。直ぐ出てきたのは中学1年の頃の挨拶英語。
「OK, Haruka。ナイストゥーミートゥートゥー」
マイクは満遍の笑みで返答する。そして立ち上がり、ハルカに手を差し出す。
ハルカはマイクの「Hey」という掛け声に応答し、手を握り返す。マイクは軽々と彼女の手を引っ張り、身体を起こす。
お互い手を握り合いながら見つめ合い、日本の女子高生とアメリカの大学生の『はじめまして』の握手が完了した。
そして理解した。
「てか、デカっ……ウケる」
身長190センチを越えるマイク。日本にいてまずこのサイズの人間に合うことは無い。見上げるだけで首がつりそうだ。
密室に女子高生と巨大な黒人男性。ある意味逃げられない状況。普通の女子高生なら恐怖や警戒心を抱くだろう。だが、ハルカにそう言った感情は無かった。
「Oh, by the way... Haruka look!(あ、そうだ。ハルカ、見てくれ)」
大事なことを思い出した。これはハルカにも伝えておこう。マイクが握手を解き、扉の方を指差す。
「え?嘘、扉じゃん!出口じゃん!ナイス、マイク!ナイスマイク!」
ハルカは両手の拳を握り、飛び上がり、喜びの感情を表現する。
ハルカの閉じ込められていた部屋から入って、正面にその扉があるのだが、マイクの存在が余りにも衝撃的過ぎて気が付かなかった。
「って、おーい! 鍵掛かってんじゃん」
電子錠が目に入り、落胆する。「お嬢さん、こちらの部屋も謎解きですよ」と
「へイ、ハルカ」
「ん?何、マイク」
マイクはハルカに謎の描かれた紙を見せた。
三角形、四角形、また三角形、五角形が描かれた図の下にそれぞれ『4』『6』『8』『12』の数字。
最後にもう一度三角形に『?』の文字。どうやらこの数字を解くらしい。
「なるほど、謎解きね。私に任せて」
ハルカは胸に手を置き、自信満々に答える。
だがマイクはそんなハルカを無視して、扉に向かった。
「えっ、ちょっと、マイク…」
マイクはそのまま電子錠に入力しようとする。
――『正二十面体』だろ。簡単だ。
『20』と打ち、エンターキーを押す。
緑の○が表示され、ロックが解除される。
「なんだマイク…もう解いてたんだ」
ハルカは喜色を浮かべ、マイクを見守る。
ドアノブが回った。
マイクは力を込め、ドアを引く。
重い扉の先から、青白い光が漏れる――
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