第4話 文字


 床の中央に小さな金属(鉄?)部分。


 コンクリートに囲まれた牢獄の様な部屋だと思っていたが、少し違った。

 何か脱出方法があるかもしれない。


「なんなんだろこれ…ボタン的なものでもあんのかな」


 うつぶせ状態で床に寝転がりながら、「てつ」と書かれた部分をトントンと突き、考える。


「トントントントン、日根の2トン。トントントントン、日根の2トン。フフフ……」


 指で叩くが何も起きない。

 飽きたハルカはその場で転がり、仰向けになって天井を見上げる。


 眠れない時は天井のシミを数えると言うが、この部屋の天井はシミ一つ無い。

 おかげで天井の高さが分からず、苦労している。


「何も無いってことは無いはずなんだよね。なんか床に鉄あったし」

 目線を回転させ、辺りを見渡す。


「あっ……てことは壁もなんかあるんじゃね?」


 ハルカはゆっくり起き上がり、スマホを手に持ち、壁に近づく。


 先程は力付くで壁を壊そうとしたが、床の時みたいに、しっかりと調べていなかった。

 もしかしたら同じ様に壁にも鉄の様な部分があるかもしれない。


 ハルカは自分の背が届く範囲で、壁を調べる事にした。


 指でなぞりながら、スマホケースの磁石部分をスライドしながら当てる。

 さながら金属探知機の様に。


 床の時と違い、四方全てを調べる必要がある。

 いつも適当にやる掃除の雑巾掛けとは違い、少しの異変を見落とさない様にしっかりと調べる必要がある。根気の要る作業だ。


 調べると言っても、ずっと同じ景色。単調な動き。頭がおかしくなりそうだった。


 小学生の頃にこっそり読んだ、父の部屋にあったスポーツ漫画を思い出す。

 小太りの男性が「諦めたらそこで試合終了ですよ」と言うシーン。


 とは言っても、その漫画の中のシーンと自分の置かれている立場は全く違うのだが、

 その台詞がすごく好きだったのを覚えている。


 思えば、それが影響で中学の頃にバスケ部に入ったんだっけ。

 みんなで汗を流した体育館を思い出す。


 はっきり言って、キツかった。あれだけ辞めたかったのに、引退した後はすごく寂しかった。

 高校に入ってからは、周りの友人と合わせて帰宅部になってしまった。

 だけど、何故か、あの頃の景色を今思い出した。


 純白の部屋は木目の体育館になっていた。


 均等に並べられた木目の壁。何度もボールをぶつけた壁。


「あれ……?」


 指でなぞったところに違和感を感じた。

 凹んでいる様な気がする。


 一瞬幻覚を見た様だが、ここはあの頃の体育館では無い。何も無い白い監獄だ。


 もう一度なぞる。確かに少し凹んでいる様だ。


 指全体で壁を触ると、その凹みは横に広がっていた。


「これ文字じゃん!」


 ハルカはその場にスマホを置き、部屋の中心へ戻る。

 乱暴に転がるペンを持ち、スマホを目印とした先ほどの場所に戻る。


「えーっとどの辺だぁ?」


 もう一度指でなぞる。あった。この辺りだ。

 部屋が白過ぎて気が付かなかった。

 ペンでその部分を乱暴に塗る。そして黒くなった部分から白い文字が浮かび上がる。




『君のスマホの中にカギがある』




 ハルカの顔が紅潮し、瞳孔が開く。頭の中のドーパミンが放出される。


「スマホ…って私の?」


 ハルカはスマホを手に取り、中を確かめる。


「あった…すげー!これじゃん‼︎」


 ホーム画面からスライドした最後の使アプリのページ。

 そこには自分が入れた記憶の無いアプリがあった。



 ――脱出アプリ――



 白い立方体、正にこの部屋のことを示すアイコン。

 アプリの名前は『脱出アプリ』。


 ハルカは脱出アプリをタップした。

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