楽園ノイズ
杉井 光/電撃文庫・電撃の新文芸
1 骨色の魔法 その1
ピアノの
骨をじかに指で
だから、
*
ところで最初にはっきりさせておきたいのだけれど、
こちとらアマチュア中学生である。ギターもキーボードも大した
そんな
「女装して
「いやいや、そんな
「知らないって。みんなどうせ音楽とかどうでもいいんだよ、女子高生の太ももが見られれば大喜びなんだから」
おまえ
とはいえ
完成品を
「おー、いいできじゃん。女の子にしか見えないよ。さすが私のコーディネイト」
たしかに女にしか見えない。顔は画面外だし、歌のない曲だから声も入っていないし、体格的に男の
複雑な気持ちでアップロードしてみたところ、
そんな
「なんでマコは
「じゃあもう姉貴が動画に出れば? 顔も出せばさらに絶賛じゃないの……」
くたびれきった
さて、これで話は終わらなかった。
成功体験は
姉は制服を
期待されている。
さんざんためらったが、けっきょく
うおおおおおおおおふともももももももも、というコメントで
もう三本ほどアップロードしたあたりで、なんか
すると──当たり前だけれど──チャンネルの動画リストに並ぶのは制服&太もものサムネイルばかりになる。
これはこれで
まあ、べつに本名を出しているわけでもないし、動画サイト以外の場所で音楽活動をするつもりもないし、
*
高校に入学してすぐのことだった。芸術
あらためて目の前にすると、でかい楽器だ。
しかも
なんの気なしに、
「……あれ?
いきなり後ろから声がかけられ、
「あ、す、すみません、勝手に
「いやべつにそれはいいんだけど、今の曲って」
「ムサオのロココ調スラッシュの中間部だよね?」
ピアノの下に
知られてた──。
待て、落ち着け。
「え、ええ、先生も知ってたんですか。動画で見たんですけど、けっこういい曲ですよね」
「きみがムサオでしょ?」
「……は? いや、あの、ええと、ネットで
「あたしもあそこのピアノ耳コピしようとしたけどなんかうまくいかなくてさ。でもさっきのは
「なぞらないでくださいっ」
いきなりワイシャツの
「いやあ、ほんとに男の子だったんだねえムサオ。まさかあたしの教え子とはね」
こういう
「あ、あの、先生、このことは
「あの動画が学校に広まったら大人気だねえムサオ。文化祭で女装コンテストもあるし期待の星だよ」
「お、お、お願いですから」
「あたしも
「ありがとうございますっ」
「でも条件がある」
残念ながら
一年生の音楽授業ではまず校歌を習うのだけれど、この
「なんですかこのシーケンサ
「何年か前に校歌を混声四部合唱にアレンジしようっていう話になってね、ここの卒業生で音大に通っているやつに安いギャラで発注したところ、
「ひでえ話もあったもんですね……。だれなんですかそいつ。文句言ってやりたい」
「
「あんたかよ! ええとその」
「文句があるそうだから聞いてあげるよ」
「色々すみません、はい、文句などめっそうもない」
「まあ実際作ったあたしもこんな
ほんとうにひでえ先生なのである。その後も『河口』だの『信じる』だのといった、
それに、グランドピアノの
「たった一週間でわりと
「あと先生、ムサオって呼ぶのやめてくれませんか。他の人がいるところでもうっかりその名前で呼ばれてバレたりしそうで……」
「
「『む』しか合ってねーでしょうが!」
「それでね、ムラオサ」
「どこの村の村長だよ? 人の話聞かない村ですかっ?」
「来週の授業でハイドンの四季をアカペラでやろうと思ってるんだけどね」と先生は人の話を聞かずに
このまま要求がどんどんエスカレートしていくのではないか? 高校卒業する
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