出会い、結婚、幸せって

さて、ここからが本編の始まり

進がM子と知り合ったのは今から5年ほど前。

M子は結婚を前提としている進に自分の母、義理の父を会わせた。

進は頼りなさそうに見えたが決して悪い男には見えなかったため、M子の母も義理の父も

「M子を幸せにしてあげてね」

と、結婚を認めお祝いした。

実はM子の母は離婚経験者である。自分も同じ道を歩むことになろうとは、この時は思ってもいなかった。

少し話はそれるが、母が最終的に離婚したきっかけが、夫の家族である母親の借金を自らに押し付けられたこと、夫に暴力を振るわれたことが原因であり、夫のみでなく、その両親もしっかり見て結婚は考えるべきであるとM子は思っていた。

進が、親を嫌っていることはM子も聞いて知っていたので、進の両親に対しては不安を抱いていたが、M子にはすごく優しく接してくれる進の親に、なぜ進がそこまで嫌うのか不思議なくらいであった。

M子の母たちは進の両親に会いたいと何度も時間を調節し、進の親に合わせ、名古屋にも会いに行ったが、ついに結婚するまで進の母に挨拶する程度の時間しか会えなかった。

M子の母は、親同士会おうともしない、こんな両親のもと、名古屋に嫁がせるのを不安に思いはしたが、M子が進について行くというのを無理やり引き留めることは出来なかった。


二人は結婚、名古屋暮らし、M子は女児を出産した。

このときばかりは、どちらの親も会いに来る、会えるはずだ。

M子の母は、このとき初めて進の母と名乗りあった。進の母は

「わたしも夫もMちゃんのことが息子よりかわいくて、大切にしますので私たちに任せてご安心くださいね。」

と、M子の母に笑顔を振りまいていた。

進の母は夫も来ていて、孫を見ていると話ししていたので、当然M子の病室に来るものと思っていた。

だが、この進の父は孫の顔だけ見て、M子の病室に来ることもなくとっとと病院から帰って行った。

それを聞いた、M子の母は、

「孫にだけ会って、産んだ本人に会わないって?」と、少し怒りを露わにしていた。

進の母は、

「また、後日、Mちゃんには会いに来るからと夫が言っていた」と。

つまりは、M子の母に挨拶したくなくて帰ったとしか考えられず、M子は少し進の両親の勝手さに気付き始めていた。


M子は育児に追われていたが、進はまともに仕事をせず、なにかというと体調がすぐれないと仕事は休む。あそこは合わないと仕事は辞めるの繰り返しで、まともな収入が無かった。

娘のおむつは病院などでもらったものがあったので、それを使用していたが、数には限りがあった。かわいそうであったが、濡れたおむつのままで過ごさせる日が徐々に増えていった。

母乳は出ていたが、ミルクも必要でほとんどの収入はミルク代に消えた。

水でかさ増しした料理を食べた。

たまに、進の母が、おむつや食べ物を差し入れてくれたが、それでこと足りることはなかった。

借りているマンションが水道代込みだったことが幸いして、娘をお風呂にはちゃんと入れることができたのは救いだ。


M子は出産後数か月して初めて娘を連れて実家に里帰りした。

この間、進は自分の両親のもとで生活した。

この時、生活が苦しいことを話ししていれば、とM子は悔やむ。

実家では美味しいもの、まともな食事を食べ、娘にもちゃんとおむつが濡れたら替えてあげるという、通常の行為ができる生活が過ごせた。

でもそれも2週間足らず。進から

「寂しい。早く帰ってきてくれ」と、ラインに電話が頻繁に送られてきた。

M子は母から、何か困ったら使いなさいと渡された数万円を大切にかかえ、帰って行った。

M子は進が好きだった。この時点ではまだ。

だから、仕事を今はしていなくても、家事を手伝わなくても、娘の面倒もほとんど見なくても、もう少ししたらまともな仕事について、ちゃんとした父親になってくれる。そう信じていた、こんな生活ももう少しだけと耐えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る