青春したいだけなんだ!!
詩鳥シン
第1話 隣の席の電波ちゃん
春となり俺、江川透は高校生になった。
俺にとって今日は大切な日だ。新しい場所ということもあり一緒に過ごす学友は今日選択されるだろう。万が一でも今日あぶれてしまってはこれからの生活に支障をきたしかねない。
「次、江川。」
「はい。」
教師の指名があり俺は席を立つ。クラスメートたちが振り返る様にして俺を見る。
『江川』という苗字のせいで俺は人の一番少ない教室の隅の席にされたのだ。
朝から入念に準備してきた文章をゆっくりと読み上げる。
「江川透です。趣味は音楽鑑賞です。最近はバンドのkNightが好きです。よろしくお願いします。」
クラスの拍手を浴びながら静かに席に着く。自己紹介の基本は話しやすい人と思われる様にすることと同じ趣味を持つことだ。
俺の今のは最近若者に人気のある音楽バンドについて話すことでみんなに『知ってる!』と思ってもらうのだ。
実際kNightは俺の好きなバンドで特にボーカルがかっこいい。
クラス内の自己紹介は俺の斜め前まで進んだ。出席番号九番だ。苗字『来栖』ってまじか。女子生徒だった。
俺も機械的に手を叩き、来栖さんの自己紹介を締める。
「じゃあ、次、小見。」
「……はい。」
お隣さんだ。『こみ』っていうのか。こっちも珍しいな。落ち着いている雰囲気だ。
そして雰囲気に合って顔立ちも綺麗だと思う。目は切れ長。髪はさらさら。羨ましいな。
小見さんが口を開いた。
優しく、時々冷たさを感じる声だった。
そしてその後、本当にこのクラスが冷ややかになるのだった。
「はじめまして、私は小見凛花。この世界に降り立った一人の異界人であり、あなたたちの言葉で言う宇宙人よ。無能力者だから、期待されても困るわ。あと私もkNight好きよ。この世界の文化を学ぶ上で参考にしたわ。よろしく。」
クラスの中には沈黙と寒気が広がった。
皆が小見さんの言った言葉を一つ一つ噛み締めているのだろう。
異界人、宇宙人、無能力者。これが明るくてボケているとわかりやすい奴ならばみんな暖かく迎えただろう。だが、小見さんの言葉は笑っていい類なのかどうか掴みづらい。
ついでに俺にかぶせてきたのが妙に気になる。最後俺を見てた気がするし。
先生も呆気に取られた様子だった。
「…………あ、すまん。じゃあ次酒井。」
その後さっきのことを内容に自己紹介は続いた。小見さんに対して拍手が無かったのはしょうがなかっただろう。
クラスメイト全員の自己紹介が終わり学活の残り時間は隣の席の人と交流となった。
先生を恨まざるを得ない。何故なら俺は今から自称異界人兼宇宙人の相手をしなければならないからだ。
横を向く。すると、黒い瞳が二つこちらに向けられていた。
一瞬紅潮したのは、必然だった。顔立ちはいいのだ。しょうがない。思春期男子だ。
その後見つめ合い、俺は目を逸らそうとした。口を開いたのは小見さんだった。
「あなたは人間?」
どんな質問だ。
「十五年間人間を全うしてるよ。小見さんは?」
「私は宇宙人よ。」
即答だった。
「そっすか。」
会話が止まった。順番的には次は小見さんだろうが、この人は電波発言しかしないからな。次はどんな言葉くるのだろう。
その次はすぐにきた。
「私は宇宙に帰るつもりはないわ。」
「なんで?」
「この地球という世界に惚れたのよ。」
「どんなところに?」
「主に魚の形をした甘味ね。」
たいやきか。意外と日本人している。
「ほかにまるくてトロトロ熱々のやつ。」
……たこやきかな?
「あと赤い線状の食べ物。」
「そろそろ理解に苦しむ。最後のナポリタンか。」
「そうそれ。」
俺の推理力も限界がきた様だ。探偵は職業欄から外しておこう。
「小見さんはたいやきとたこ焼きとナポリタンが好きなの?」
「そういうあなたはアボカドとトマトが大好物ね。」
「俺の苦手なものを並べるな。てか、よく分かったな。」
あの緑色のうねっとしたやつと赤ぐしゃっとなるやつが俺は嫌いだ。それをすんなり並べられ、あれはこいつ本当に宇宙人じゃねと少し思った。
「私はルルイの実が嫌いよ。あの青い木の実はなんなのかしら。」
「知らんけど、地球には青い木の実はない。」
多分。
「なら、安心だわ。」
そうこうしている内に先生の挨拶により授業が締められ、数秒後チャイムが鳴った。
新生活の成果は宇宙人の知り合いができましたっと。
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