5
「お誕生日おめでとう」
教室に入ると、待ち構えてた彼女が満面の笑みで私に向かってそう言った。
「ありがとう!」
私も嬉しくなって満面の笑みを彼女に返す。
「ほら、早く早く」
そうして手を引かれ連れて来られた私の机の上には、前に好きだと言ったあのお菓子と綺麗に包装された小包が置いてある。
「開けてみて」
その包装されたものを手渡され、私は言われるがまま包みを開く。
「あっ! これ、ずっと欲しかったやつだ」
中には、私がずっと欲しいと思っていたリップとメッセージカードが入っていた。
「本当に嬉しい」
「気に入ってもらえたようで、私も嬉しいよ」
そう言って笑いあった。
私のために選んでくれたプレゼントだと思うと、とても愛しくて。
愛しくて、苦しくて。また吐き気が私を襲う。
「この病気は、気持ちが高ぶると吐き気を催し花を吐く」
そう言った先生の言葉を思い出した。
そうか、まさに今私の感情は頂点のところにいた。中にある花の種が反応して花と成り、喉元までせり上がる。
こんなところ、彼女に見せるわけにはいかない。見せてはいけない。見せたくない。
「ごめん、ちょっとトイレ……っ」
そう言い残し、走って教室を出る。
気持ちを落ち着けないといけない。けれど、まさかこんなに嬉しいことが起きるなんて思ってなかったから、そう簡単に落ち着けるはずなんてなくて。
「あ、やば……っ、うぅえ……っ」
トイレにはぎりぎり間に合わず、赤い花を吐き出した。
どうしよう。誰かが来る前に片付けないといけないが、未だ収まる気配のない吐き気と追いつかない頭で動けずにいる。唯一よかったのは、まだ朝早いからか廊下に人がいないことだけだった。
「……百合、ちゃん?」
背後から声が聞こえた。
今、一番聞きたいけれど聞きたくなかった声が。
声にならない。いっそのこと叫んでしまいたいのに。
パニックになっている間にもまた花はせり上がってきて、無理矢理飲み込もうとするけれど、運悪く喉に詰まる。
「あぁ……うぁ……」
彼女はこの惨状を見て、どう思ったのだろうか。流石に軽蔑しただろうか。そんなことならいっそのこと、このまま、このまま詰まって死んでしまいたい。
ああ、でも彼女と会えなくなるのは……ちょっと寂しいかもしれない。
そんなことばかり考えていた。
「百合ちゃん、しっかりして!」
朦朧とした意識の中、彼女の声が私の頭に響く。
そして走馬灯のように夢を見た。
白い花でいっぱいのお花畑で一本だけを大切に握りしめ、くるくると回る夢だった。私は幸せな気持ちで胸が満たされ、ただひたすら回っている。
目眩がするほど回り続けて、そのまま目の前が暗転した。
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