第42話
「おい、気持ち悪いぞ」
宏斗が冷たい目線を注ぐ。
「ど、どこがだよ!返信を待ってるだけじゃん」
「だからって付きっきりになることないだろ。しかもなんだよ、お前は一向にガラケーの上に、新しく買ったって言う彼女もガラケーって。俺は昔の恋愛ドラマでも見させられてるのか?」
「うるさいなぁ、これが一番使いやすいんだよ……あ、来た!」
手の中で震える携帯をすぐさま開き、メールを確認する。
すごい!桜の蕾をもう見つけたんですね!とても綺麗です。ほんのり桃色で、今にも咲きそうな膨らみにわくわくが止まらないです。また好きな絵が増えちゃいました。今日も素敵な絵をありがとうございます。
私はいまお母さんと一緒にチョコレートを作っています。鈍感な水無瀬さんでもわかりますよね?バレンタインだからです!明日の朝、家のポストに入れておくので受け取ってください。その時少しでも逢えたらいいんですけど……水無瀬さんは朝が苦手だから無理はしないでくださいね。
要より
僕は携帯を握りしめ、目を見開いた。
「やばい宏斗……目覚まし時計がいる!」
「はぁ?」
最近の寝起きの悪さは異常で、結局目覚まし時計五個を駆使しても起きれなかった僕を、宏斗が一日中慰めることになった。高級店並みに美味しいチョコレートをひと口ひと口大切に頬張りながら、また絵を描き、メールを送り、ベッドの上で返信をいまかいまかと待ち侘び、メールが届くとまたにやけ、そんな日々を繰り返していた。
いま僕は世界中の誰よりも幸せだ。
十日、二十日と時は進み、思っていたよりも一か月はあっという間に過ぎて行った。辛いときだけじゃなく、幸せなときにも部屋で一人、宙に笑顔を描き続けた。きっと要も、同じものを描いていると信じて。
そして、卒業式の日が訪れた。
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