第48話:~勝者と敗者~ The Duel

私達精霊は、リヒターが生まれた頃からずっと見守っていた。

彼の幼少期に居た女の子、それがウォルスだ。

リヒターはあの頃から誰に対しても分け隔てなく優しい子だった。

困った人を率先して助け、話しかけ、とても優しい子だった。

そんな彼でも悪い点が有った、彼は理由が無ければ何もしない子だったのだ。

自分自身がどうしたいと言う意志が見えない子‥

それが私の印象だった。

だから、彼は常に他人の為に何かをする、でも自分自身の為には何もしない。


そんな彼の近くに居て、一番彼を知っていたのは彼女だった。

彼女は彼のもつマイナスな点を補える人物だった、彼女は率先して彼を引っ張り色んな所へ連れて行き、沢山の物を見せてくれた。

彼女が彼の感性の発達に手助けしたのは言うまでもない。

私は彼女が将来リヒターの隣に居るべき人間だと思っていた‥しかし歳を取るにつれて、彼女は変わった。


徐々に彼の存在を自分の「恥」と感じてきたのだ。

魔法が使えない、自分の考えを滅多に言わない、感情を素直に伝えない、そんな事が彼女の苛立ちを助長したのだろう‥こうして彼女はリヒターを虐め始めた。

そしてあの水難事故に遭い、私達は彼とやっと契約を結べた。


そして‥彼女はリヒターを好きだとか言っていた。

だが、私は許せない。

リヒターを虐めて心に傷を負わせた人間だ、そんな相手を簡単には‥

もし‥あの時、彼女がリヒターを虐めさえしなければ、私は何も言わなった。

そして堕ちた彼女を‥許す訳にはいかない、リヒターを大切に思うのなら猶更‥


「ウォルス、悪魔に魂まで売るとは‥」


「魂?何を言っているの?私は貴方を殺す為に得た力よ‼私からリヒターを奪った貴方達への復讐よ」


そう言ってウォルスは死者を操り私へと襲わせた。

レイが居れば、こんな奴らは一瞬で倒せるが‥生憎私とは相性が悪い。

倒すのに時間が掛かるのだ、物理破壊ではこいつらは倒せないからだ。

だが、どれだけ強いか小手調べに私は魔法を放つ。


「カッティングエッジ」


闇魔法の初歩だ、無数の闇の刃が襲うが、首を切り落としても奴らは動いている。

この程度は如何と言う事も無いと言う訳だ、次だ。


「アッシェエストゥーアッシュ」


上級闇魔法の一つで物理的に老朽化させ、敵を朽ちさせる魔法だ。

生命有る物には効果的なのだが‥ゾンビ程度にしか効果が無い。

死霊には全く効果がない、それでも3割程度の数は減らせた。

面倒だな‥そう感じた私の表情を見て察したのか、彼女は余裕の表情だ。


「ふふ、分かってるのよ、貴方にとって私が苦手だと言う事は、大人しく私に殺されなさい、ソウルディガー!」


そう言って、死霊達は一体に合体し巨大な生き物へと変わった。

鎌が印象的な空に浮く黒い何か‥まるで死神の様な風貌‥

その鎌が私を襲い、避ける為に下がったが、髪に掠った。


「ふふ‥これは勝てそうね?でも、まだ終わらないわ、貴方の魂を拷問しないと気が収まらないわ!」


感情が高ぶっているのか、目が血走っている‥

悪魔に魂を売ったからなのか、私を本気で倒せると思っているからなのか‥


「ふ、甘いな‥私は決して降参はしない。お前の様に悪魔に魂を売る様な弱者ではない!」


確かに‥『普通』の闇魔法ならな、だが私は『普通』ではない。

私達上位種は、苦手とする相手との戦闘に勝つ為のとっておきがある。


デビルハンター、デーモンハンター‥様々な呼び名で呼ばれる、対悪魔戦を専門とした生き物、私はそれを呼び出す事が出来る。

そいつは悪魔に対して絶対的な強さを持ち、悪魔を殺す。

これは闇魔法使いの上位種のみに許された、特殊召喚魔法‥だが癖が強いから出したくはないが‥仕方ない。


「いでよ!インクィジター」


地面に現れた魔法陣から人が出てくる。

彼女はインクィジター、元人間で生前は光魔法を使う有名なデーモンスレイヤーと呼ばれた女だ。

癖の強い女だが‥まぁ仕方ない、強いから許してはいるが‥


「あー‥久々の現世~!空気が美味い!」


「インクィジター、滅しろ」


「えー‥もう少し空気を味合わせてよ~!精霊界はちょーっと息苦しいんだから!

あ、あと報酬はしっかり出してよ?私あの男の子が良い!おばさん」


この軽口だ‥毎回言っても治らないからもうスルーしているが‥

流石におばさんはキレる。


「お前あの世に返して欲しいのか?構わんぞ?」


「あー、分かった、分かった!しっかり働きますよ! これだらせっかちは‥」


そう憎まれ口を叩くが、こいつの強さは折り紙付きだ。

余裕な表情で一歩ずつその死神に近づき、構えた。


「んー、雑魚ねぇ‥じゃあ久々に派手に行くよ!」


そう言って、彼女の両手にバチバチと稲妻が走り、両手を前え出した。


「ライトニングフォース!」


そう言って、稲妻の衝撃波を手のひらから出し死神へと当てる。

死神は一瞬にして消え去り、彼女は残念そうな顔をする。


「はぁ~糞雑魚じゃん!よわっ!悔い改めて!私を倒したいなら、悪魔だしなさい、悪魔、こんな低級じゃお話になりませ~ん!」


そう言ってポーズを決めだした‥こいつは本当に性格に難がある‥煽る、無駄の多い言葉に、謎のポーズ‥

そんな事を他所に、ウォルスは表情一つ変えない。

何かまだ奥の手等が有るのだろうか‥


「ふふ、そう来ないとね‼でも今日はこれまで、貴方の力は見極めたわ。リヒターが無事なのが分かったし、良いわ」


そう言って彼女は去って行った‥


「ねぇ、おばさん、追わなくて良いの?あいつ一発で倒せるよ?」


「今は良い、リヒターの事の方が心配だ」


そう言って私は彼の元へと行くのであった。

彼は眠っている様に静かで、傷は全て塞がった様だが‥


「目覚めないの‥精神の傷は魔法では治せないわ‥」


レイはそう言って下を向いた‥

大丈夫だ、リヒターは強い子だ、絶対に‥また立ち上がる。

私はそう信じている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る