第30話 あちゃー。

それから暫くの学校生活は安泰だった。森川が何かしてくるのかと身構えていたが、何も無かった。良かった、良かった。宮野には別の意味でロックオンされたらしく、彼女からの視線が熱い。とほほ。


「なぁ、一ノ瀬ー」


「ぬぉ!」


吉崎がまた話しかけてきた。話しかけてくれるのは、嬉しいんだが宮野の目が怖い。あー、ほら、僕らをじっと見てるよ。


「森川の事なんだけどさぁ」


「森川ぁ?」


「そう。お前に飛び蹴りした森川だよ」


「森川がどうかした?」


あいつ、また何かやらかしたのか。


「今、クラスでいじめられてるらしいよ」


「はぁ?いじめ?」


いじめなんて低俗な行為。こんな進学校でもあるのか?


「そう。クラスの女子からハブられてるらしいよ」


「なんで?あいつ、また変な事やらかしたのか?」


「いや、今回はそうでもないんだよ。森川がクラスでいじめられていた女の子を助けたんだよ。そしたら代わりにターゲットになっちゃったわけ」


「そんなの、森川は何も悪くないじゃないか!」


「やり方が少しまずかったんだよ。いじめてた女子達をビンタして、教卓の上に仁王立ちして演説したらしいぜ。いじめはいけないって」


あちゃー。それは駄目だ。前世でもウィル・ウォーカーは魔王を倒したくらいだ。きっと正義感が強いのだろう。


「それで今、女子から総スカン食らってるわけか」


「ああ。そういうこと」


吉崎はそう言って、僕の目をじっと見る。


「なに?」


野郎に見つめられても嬉しくないんだけど。あ、宮野、嬉しそう。


「助けてやんないの?」


「なんで僕が」


「飛び蹴り喰らった仲じゃん」


「どういう仲だよ」


さて、どうしたものか。

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