第12話「戦力の決定的差ではないッ」

「ナナミ…………?!」


 猛は気付いた。

 気付いてしまった。


 だってそうだろ?


 こんな芸当できる奴なんて、一人しかいない。


 ジャイアントオーガを狙撃・・でぶち倒す奴なんて一人しかいない!!


《何をしたぁぁぁあ! 答えろぉぉぉお!》


 スズゥゥウン…………。


 騎士団を攻撃中の一体を除き、猛に立ち塞がる最後のジャイアントオーガがゆっくりと倒れ伏せる。


 その瞬間を猛は見ていた。


 奴が……ジャイアントオーガが、遥か先の丘を見て恐怖の叫びをあげたことを───!


「は、はは……! ナナミだ。ナナミが来てくれた……」


 守る?

 誰が誰を?


 俺がナナミを……───?


「はは! あははは!」


 ば、バカだな……俺は。

 ナナミを守るとか───つくづく馬鹿だ。


 日本にいたころだって守れたことなんてあったかどうか───。

 それ以前に、ずっと守られていた気がする。


 孤独や、将来への不安。

 そして、日常を彼女はいつも守ってくれた。


 それは異世界に来ても同じこと───。


 彼女は猛を守る。

 ナナミは猛を護る!


 日常でも、

 将来への不安でも、

 孤独からも──────。


 そして、

 ……例え戦場であっても、猛を守る!!


「ナナミぃぃ……」


 シュランッ!


 ようやく立ち上がる勇気の出た猛。

 今頃になってメイベルから手渡された剣を鞘引いた。


 ズシリと手に馴染むそれを不格好に構える。


《ぐ……。グハハハハ! なるほど、なるほど。青臭いとはいえ勇者ということか》


 ニィィと凶悪に顔を歪めるオーガチーフ。

 奴はジャイアントオーガに起こったことは理解できずとも、猛の戦う意思を感じ取ったらしい。


 ならば、難しく考える必要はない。


 ただ反撃によって味方がやられたということだけを認識すればいいのだ。


 そして、倒すべき敵として猛を正面から見据える。


《カッ! あの状況から、ワシに立ち向かうとはあっぱれな心意気───だが、》


「ナナミッ! 俺は───」


《女の名前を言ったなぁぁぁあああ!!》


 ドンッッ!! と神速の踏み込みでオーガチーフが猛に迫る。


 これは───……。

 「縮地」ってやつか?!


《───戦場で女のことを言う様な軟弱者はよぉぉお、一番に死ぬんだよぉぉぉおお!》


 俺は……。

 俺は──────!


「───……俺は死なないッッ!」


 死ぬわけがないい!!

 死んでたまるかッ!


 ナナミが来た!


 あのお節介で、

 ……時には鬱陶しくて、


 優しくて、

 温かくて、

 可愛くて、


 大好きで────最強の幼馴染が来た!!

 


 来てくれたッッ!!



 だったらよぉぉぉおお───……!


「こんなところで、死ぬわけがねぇぇえだろぉぉおーーーーがぁぁあーーーーーー!!」


 縮地でステータスの不利を補っているらしいオーガチーフ。

 地の力では猛のステータスが負けるとは思えない。


「つまり、さぁ!」


 猛は何合と斬られたおかげで、オーガチーフのステータスの概要を掴んでいた。


「ビビったら負けるッて、こと!」

《ぬぅ?!》


 サッとオーガチーフに向き直り、剣を突きだす猛。

 それは、完全にオーガチーフの動きを先読みした動き。

 「縮地」を使い意表をついたと思っていただけに、奴の驚いた顔。

 そこに「ざまぁみろ」と言ってやりたい!


 そして、

 身体ごと振り返り、奴に向きなおると後は力押しだ!!


《ちぃ!!》


 やはり、勇者の能力は飛び抜けているらしく、オーガチーフのステータスを遥かに凌駕しているようだ。


(───勝てる!!)


 ……落ち着いて向き合えば、Lv23の基本ステータスだけで十分対峙できるのだ。


「そこぉぉ!」

《ぐぬぅ───!!》


 ガッギィィィイイン!!


 ゼロ距離で舞い散る火花!

 その瞬く光が両者の視界を焼くも、どちらも退かない! 退いてなるものか───!!


 猛の剣とオーガチーフの剣が互いに激突!


「このぉぉぉぉお……化け物ぉぉぉぉおおおお!!」

《若造ぉぉぉぉおおお、ああああああああああ!!》


 ギギギギギギギギギギギギギギギ!!


 鍔迫り合いとなれば単純な力勝負だ。

 そして、そうなれば猛の有利!!


 援護のジャイアントオーガがいない今、一騎打ちをする二人を邪魔するものはいない──……そうなれば、猛の膂力が物を言う!


「これが勇者のパワーーーーーーーだぁぁぁぁぁあ!!」

《ぐぬぅぉぉおおおおおおおおおお! こ、小癪なぁぁあ》


 行ける……!

 倒せるッ!!


 ギリギリと、オーガチーフを押し込んでいく猛。


 そして、あと一歩──────。


「ゆ、勇者どの───……ダメだ! 斬り結ぶなッ! 忘れたのか……我らが剣は、」


 そう。

 猛が持っている騎士団の剣は────……ピシッ!


「───ただの鉄だ!」


 パキィィイン!!


「なっ!?」


 鉄の剣では、オリハルコンの曲刀には───……敵わない!


「くっ……。またか、くそ!」

《ぐ! ぐははははははははは! 勝機ッ》


 とっさに鞘を持って二手に構えた猛。


 それでなんとか致命的な一撃を防いだものの、もう───もたない!!


「ゆ、勇者どの!!」


 オーガに引き裂かれんとしているメイベル。

 彼女が悲痛な叫びをあげる!


 もはや彼女の配下は、ほとんど全滅だ。 


 ジャイアントオーガはかなりの矢を受けていたが、それでも健在。

 今は踏みつぶした騎士を地面から引きはがして、パクリと口に入れている最中───。


 そして、小型のオーガはこの場で唯一の女性であるメイベルの鎧を剥き出しにかかっているらしい。


 奴らは食人族でありつつも、性欲も持ち合わせている。


 きっとメイベルは散々嬲られてから殺されるのだろう───。

 だが、毅然とした彼女は最後まで戦っている。


「ま、まだだ! まだ終わらんよ!!」


 もはや槍は折れ、

 剣は砕けていても、小さな短刀だけで、メイベルは最後まで抵抗する。

 決して諦めない───!


「はい! 俺も───諦めません!!」


 ……だってそうだろ?


 戦場には様々な要素が付きまとう。

 そして、戦闘においてもそれは同様──!


 常に、最後まで何が起こるか分からない!


 膂力で勝り、

 ステータス全てを上回っていても!!

 それが、武器の性能差でひっくり返ることもあるのだ。


《カッ、もう終わりよ!!》


 勝利を確信したオーガチーフが高笑いする。


《死ねぇぇえい、勇者ぁぁぁぁああ! あの女はワシが弄んでから引き裂いてくれるわッッ》


 グハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!


 オーガチーフが笑い、その声に猛が幾度目となる死の危機を感じる。


 ……感じるも。


 猛の目は、絶望には浸っていなかった。

 いや、その目はむしろ──────……?


「…………ははっ。笑ったな? 戦場で女のことを言う様な軟弱者は、真っ先に死ぬんだろ───?」


 ニヤリと笑う猛。


 折れた剣は捨て、

 残った鞘も、もうもたない───……。


 だけど、


「バンッ…………!」


 片手で鉄砲を撃つ真似をしてみせる猛。


《カッ! 窮したか? そんなもので驚くとでも思ったか!! 愚か者ッ》


「───やっちゃえ、ナナミ」


《ナナミだぁ? 女のことばかりよの、貴様はぁ! この軟弱者めが、グハハハハハハハハハハハハハハ─────────は?》


 は──────………………???


 ザン!!

 砂埃を纏った何かが戦場に乱入する。


「───もちろんだよ、猛ぅ!」


 ブレザーの上に防弾チョッキ。

 軍用ヘルメットにシューティンググラス。

 AKー47を腰だめに、肩にはRPGー7を片手で保持して構えた女子高生!


《…………な、何だお前? ど、どこから? そ、それに、なんだそれは───》



 そう。戦場には様々な要素が絡んでくる。



 圧倒的戦力で相手を圧していても───。

 ……完全に勝利を確信していても───。



 時には『RPG-7を背負った女子高生』が戦力差をひっくり返すこともあるのだ!


 そう、ままあることだ!


 いつの間にか戦場に乱入していたナナミ。

 そりゃ、幼馴染がRPGー7を担いでオーガチーフを射程に捕らえることだって、よくある話さ。だろ?


 ………………いや。ね~か?

 


 だけど、この際どうでもいい。


 すぅ……。

 ──────やっちまいな、ナナミ!!



「了解───猛ぅッ」



 ズ、───ジャキン!!



 茶色と緑の混成されたそれは、いかにも軍用品。

 武骨で飾り気のない筒。

 それは、ブレザーを着た可愛らしい女子高生の肩の上にあるには全くそぐわないけど───……。



 ナナミが構えると妙に様になる!!



《───なにをする気だ?! そ、そんなものでワシが……》



 そんなもの?


 ……ふふふ。

 オーガチーフさんに教えて差し上げてよ、ナナミさん。


 さん、はいッ!



 すぅ……………。



「「アールピィジィぃぃぃ♪」」



 発射ッファイア!!



 バシュウウウウウウウウウウウウウン!!

《ぬぉぉぉぉおおおおおおおおおおお?!》


 銃口からはロケットモーター由来の白煙が!

 そして、後方からは反動相殺のバックブラストが真っ黒な爆炎を生む!!


 ならば?!

 そうとも! あとはもう……目標目掛けて突っ込むだけッ─────────!


「「いっけぇぇぇえ!!」」


 ほ、

《───ほぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああッッ》


 爆裂信管の作動する前。よほど安全距離にいたのだろう。


 ドスン!


 と、ロケット弾は直撃してもすぐには爆散せず、腹に突き刺さったままオーガチーフがすっ飛んでいく。


 そして、そのままお食事中のジャイアントオーガ目掛けて───……!


《ぬぉぉ?!》

《ゴルァ?》


 ドガッ──────。

 …………チュドォォォォオオオオオオン!


 と、爆散した。


 あっはっはっは!!


「たーまやーーーーーー!!」

「かーーーーぎやーーーー!」


 あははははははは♪

 わははははははは♪



 あとはお決まりの。




 すぅぅ……。

「「───汚ねぇ、花火だぜッ!!」」

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