第10話「激戦!」
───す、すげぇ……。
自分で投げつけておきながら、その威力に驚愕する猛。
そのまま滑空し、貫いたジャイアントオーガの肩に着地した時には、
ズズン…………!
と、頭部が爆散したジャイアントオーガが数体。
そして、隊列のド真ん中で爆発した槍に巻き込まれた十数体の小型のオーガが、バタバタと倒れる瞬間だった。
や、
「やった、か…………?」
あまりに威力に、猛をして茫然とした。
まさかこれほど威力があるとは──……。
ポカンとしているのも束の間、
うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!
「「「うおおおおおおおおお!!!」」」
地鳴りのような喚声が沸き起こる。
振り返れば、メイベル達が歓声をあげている所であった。
「み、見たか?!」
「み、見た!! なんだあの威力は!?」
「あれが勇者の力───」
メイベルに至っては指揮を忘れて、手を組んで涙ぐみ、感極まっている様子。
「わ、私の勇者───さま……」
や、やべぇ……むず痒い。
「勇者!」
「勇者!!」
「「「勇者、勇者!!」」」
ワッワッワッワ!
歓喜に沸き返るメイベル達。
こ、こりゃ、悪い気もしないか─────うぉ?!
《───笑止!》
ドキューーーーーン!!
一撃の余韻に浸っていた猛を目がけて、巨大な投槍が降り抜かれた。
そいつは、超高速で飛来し猛のギリギリの所を掠めていく。
風圧だけで頬の筋肉がひきつれる感覚に背筋が凍る思いだ。
「っっぶね~……!!」
なんだっつーんだよ?!
一撃の余韻に浸る間もないらしい。あれほどの攻撃をうけたというのに、オーガ達の反撃は早い!
あっと言う間に立ち直ったジャイアントオーガの残余と、
小型のオーガたち───主力が、直ぐに攻撃態勢をとると猛と騎士団に猛然と攻撃前進を開始する。
そして、
一匹のオーガのような巨漢がズシン! と、足音も高らかに集団の先頭に躍り出た。
(何だアイツ? 完全武装してやがる……)
真っ黒な体躯、ガッチガチに鎧で露出部を覆った小型のオーガが一匹───。
《カッ! おまえ様らは、そこの
……え? しゃべっ───?!
(今───たしかに……?)
ズシンズシン!! と、巨大な足音を立ててジャイアントオーガが二手に分かれる。
一体は猛から距離をとり、小型オーガと行動をともに───そして、残り5体のジャイアントオーガが猛を包囲するように彼らの間合いで、ぐるり周りを取り囲みはじめた。
その巨大な手には
そして、その5体を従えるように真っ黒なオーガが一体、猛に対峙していた。
っていうか、
「し、しゃべった───?!」
《ほう?……貴様、我らの言葉が分かるのか?》
ジャイアントオーガを引き連れ、敢然と立つ一体のオーガ。
そいつはまるで人間にように鎧を着こみ、腰には細身の曲刀を差していた。
まるで……。サムラ───。
「お、オーガチーフ───いや、魔人だとぉ……!」
オーガチーフ?
魔人?
歓喜の表情から、ようやく我に返った彼女は驚愕に震えていた。
「魔人とかチーフって?」
「き、気をつけられよ、猛───……いえ、勇者様! そいつは知能のある魔族。指揮官
ッ!!
その、メイベルの忠告が終わらぬうちに、オーガチーフの動きがブレて見える。
《──カッ! 貴様が今代の勇者か? なんじゃ、まだケツの青い若造ではないか》
ガキィィイイイン!!
「ぐあっ!?」
すんでのところで、バックラーで防ぐも……!
「は、」
───速ぃ!!
《ふんッッ!!》
ドカーーーーーーーーン!!
「グハッ!」
斬撃からの蹴脚!!
筋肉質な体でありながら、恐ろしいほどの柔軟性───そして、速度! 技量!!
空気を切る音が聞こえた時には猛の体は空をクルクルと舞っていた。
メリメリと肋骨が音をたてる───……そして、追って激痛が!
「ぐぁぁあああああああ!!」
ゴホッ……。
吐き出した息がやけに粘ると思えば、血が滲む───。
《カカッ……! この程度か? 貧弱、貧弱ぅぅぅうう!!》
───やばい!
か、躱さないと───そう思ったときには、オーガチーフの追撃が猛を空中で捉える。
《カッ! これは痛いぞぉぉ? 覚悟するんじゃな───》
《フンッ!!》と、オーガチーフの気合の一閃が聞こえた時には、再度ガツン! と、鈍い振動が腕に響く。
辛うじてバックラーで防ぐことができたようだが……。
《素人めが……。槍を投げたなら、とっとと剣を抜け───! 戦場を舐めるな、若造ぅぅぅうう!!》
ガンガンガンガンガン!!
連撃連撃連撃連撃連撃!!
「ぐっぁぁぁあああああ!」
(い、いってぇぇ……!)
反撃もできないなんて!。
な、なんだよ、ドラゴンだって圧倒できたのに───オーガくらいで苦戦するのかよ?
俺は、勇者になったんじゃなかったのかよ??
───なぁ?!
ゆ、勇者の力を得たんじゃなかったのかよぉぉおお?! クソ自称神様よぉぉおお!!
《カッ。未熟ぅ……。まともに動けんとはな───これで、》
「ゆ、勇者様! 反撃を───防ぐばかりでは……」
《カカッ! 他人を心配しとる場合か? 女ぁっぁああ!!》
くい、っとオーガチーフが顎で指示したように見えたその瞬間。
「隊長ぉぉぉおおお!」
「な、なんだと!!」
爆散したジャイアントオーガの死体に隠れて接近していたらしく、突如として主力のオーガの部隊が騎士団に突撃する。
しかも、中ほどにジャイアントオーガを一体従えている。
「ぐ! いつの間に───……後列、射てぇぇぇえ!!」
あらかじめ射撃目標を決めていたのだろう。
メイベルの射撃指示はジャイアントオーガに向いていた。
練達の射手が弓を連射し、ジャイアントオーガを仕留めんとする。
ビュンビュンビュン!! と飛び去る騎士団の矢。
それは先端に僅かだけミスリルを使っているのだという。針の先端ほどだが、竜鱗すらつらぬくドワーフ謹製だというそれ。
《グギャァァァァア!!》
10名、10斉射を立て続けに浴びるジャイアントオーガ。
奴の体が矢に塗れていく。
……だが!
「ぐ!───なんて、
「隊長!───来ます!」
そして、ジャイアントオーガに射撃を集中している間に、小型のオーガが騎士団の前衛にぶつかった!
「くっ! 総員、衝撃に」
ドカーン!!
と、交通事故のような音が響き、何人かがクルクルと舞い上がる。
「「ぎゃぁぁあああ!!」」
「メイベルさん?!」
小型とはいえ通常タイプのオーガも、2~3m級で人間よりも遥かにデカイ!
そして、数も圧倒的だった。
《よそ見をしている暇があるのかぁぁあ!》
バキィィィイン!!
「あづッッ!!」
さらに強烈な一撃を受ける猛。
そのあとには、粉々に砕け散ったバックラーが……!
「ぐわぁぁぁあああ!」
メリメリと音を立てて、腕にバックラーの破片が食い込んでいく。
《カカッ! オリハルコンで鍛えた我が刃───人間の武具などボロも同然よ》
盾を失い無防備になった猛。
だが、槍を投げて以来慢心していたのか、猛はすぐに抜刀しなかった───それがゆえに無手なのだ!
「ちょ……! タンマ!!」
戦闘に関しては素人なのだから仕方ないとは言え、いきなり槍を投げたのは悪手だったようだ。
《カッ。 死ねッ! 勇者ぁぁぁああ!》
オーガチーフの鬼面が吼え、猛を曲刀で貫かんとする。
そして、騎士団はといえばオーガの突撃を喰らい前衛が紙切れのように引き裂かれている最中であった。
盾ごと吹っ飛ばされる騎士団。
必死で反撃し、何体かのオーガを槍で刺し貫くも、焼石に水も同然───……。
(嘘だろ……。みんな、こんなに簡単に死ぬのか??───お、俺も?!)
勇者の力があったのに……。
ジャイアントオーガを爆散せしめた力があったのに、
慢心して強襲され───防戦一方。
勇者の力に慢心し、敵を侮った結果がこれだ。
しぃぃぃ……ねぇぇぇえ……!!
オーガチーフの声が間延びして聞こえ、鈍く光るオーガチーフの曲刀がやけにゆっくり近づくのをスローモーションのように眺めながら茫然とする猛。
そして、メイベルも。
彼女も部下がボロキレのように引き裂かれていくのを茫然と見守るしかできなかった。
不意に絡み合う二人の視線。
二人が死を覚悟して、想うのは───。
(ナナミ───……)
(我が勇者よ───)
二人の視線が交差する。
………………そのどちらもが絶望の色に染まった─────────その瞬間。
──────ボンッッッ……!
猛を包囲していたジャイアントオーガの頭部がいきなり爆散。
《カッ?!》
「へ?」
「んなッ?!」
そのまま、ジャイアントオーガが悲鳴もなくグラリと倒れ───……勢い余ってオーガチーフに激突する。
《ぐあッ! な、なんじゃ?!》
下敷きになりそうなところを辛うじて飛び出し、回避するとオーガチーフは慌てて残身。
すぐに構えを取り、油断なく猛と向き合う。
《ぐぬぅ……。い、いつのまに魔法を!?》
「へ?」
戦意に満ちたオーガチーフとは異なり、猛は絶望していた。
すでに、戦う気力は失せているとたいうのに……。
なぜかオーガチーフは猛を警戒して苦い表情だ。
だが、猛はどこまで言っても猛だ。
まだまだ高校生気分が抜けず、現実感を喪失している。
ゆえに、今なら剣を抜ける絶好の機会だというのに、まだまだ茫然自失。
当然、魔法など使っているはずもない。
《───魔法を使えるとは、油断していたわぃ。……だが、この距離ならぁぁぁああ!》
ジャキン!
曲刀を頭上に振りかぶるオーガチーフ。
猛が魔法を打つ気配がないと悟り、神速の一撃を頭上に叩き落とそうというのだ。
魔法の詠唱よりも、直上からの振り下ろしのほうが速い、と───!!
「ゆ、勇者さま───……」
いつの間にかオーガに圧し掛かられ、引き裂かれそうになっているメイベル。
それでも、猛の力を信じ───最後まで剣を捨てない誇り高き騎士!
その目の前で猛が死───………………。
───ボンッ!!
───ボンッ、ボンッ!!
え?
「は? え? ジャイアントオーガが……」
頭がブチュっと、ぶっ飛んでる……??
「な、何が起こってるんだ?」
猛もメイベルも、オーガチーフにもわからない。
そして、猛は死なないどころか、逆にオーガチーフが追い詰められている。
なぜなら、援護していたはずのジャイアントオーガの頭部が次々に爆散していくのだ。
次々に。
次々に!!
そして、
最後に残ったジャイアントオーガが、何が起こってるのか分からずキョロキョロとしている所に、
《な、何をした?!───貴様ぁぁぁぁあああ!》
激高するオーガチーフが思わず叫ぶ。
だが、猛には何が何だかわからない。
「へ??」
いや───へ?! 俺?
《───グルァァア?!》
いまさらジャイアントオーガが気付く。
ようやく、仲間が死んだことに気付く。
………………そして、
奴だけはその有り余る身長ゆえに遠くが見渡せたらしく、気付く。
気付いてしまった──────……。
遥か彼方───。
数百mは離れているであろう、小高い丘に伏せている少女の姿に!!
ジャイアントオーガの瞳に写る少女。
それは、実に奇妙な姿だった。
だってそうだろ?
小柄な少女が、バカみたいな長さの鉄の筒に縋りついている。
槍でもなく、
弓でもなく、
弩でもなく、
魔法でもない───それ。
だが、ジャイアントオーガはその少女を見て恐怖した───……。
巨大なオーガがちっぽけな人間ごときに恐怖した!!
そう。その殺気に触れてッッ!
《グルゥァァ…………》
ブルブルと震えるジャイアントオーガ。
本物の兵士の殺気に気付き、
あの傍若無人で悪鬼羅刹のごとく、巨大なオーガが……。
ジャイアントオーガが恐怖した!
そして、
奴は生まれて初めて知る死の恐怖を感じて、ただただ咆哮した!!
《グルウアァァァァァァアアアアアアアアア………………ァァ───あびょ》
ボンッ───………………!
ドサリ……。
爆散した頭部とともに、奴の体がズシンと倒れる。
静まりかえる戦場。
引き裂かれそうになっているメイベルも、
猛を仕留める栄誉にうち震えるオーガも、
この場にいる生きとし生けるもの全てが、
誰も何が起こっているのかわからない。
答えられない。
知らな、い。
………………いや、一人いた。
この
な、
「ナナミ───?」
猛の呟きが戦場に零れた頃。
ドカーン、ドンドンドンドーーーン……!
と───。
ようやく遅れて遠来のような銃声が響き渡った。
「ナナミぃぃぃぃいいい!!!」
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