中学生が河川敷で寝てるだけの話
@pullerna
第1話
「なんでいつの間にかお前が隣で寝てんだよ、びっくりすんだろ!」
寝癖のついたボサボサ頭を掻きながら眉をしかめて抗議する本田に、坊主頭の下の垂れ目が印象的な鈴木は、悪びれる様子もなく言う。
「いや、一緒に寝るほうが気持ちいいじゃん」
「変態くさいこと言うなよ。女みたいな顔しやがって」
「ちょ、ちょっと。それはひどいよ」
鈴木が口を尖らせる。それでも垂れ目はそのままなので、あまり怒っているふうには見えない。子供の頃こそいろんな人に可愛がられて嬉しかったが、中学1年生の今となっては童顔がコンプレックスなのだそうだ。
ここは中学校の裏手にある河川敷で、放課後は学生たちのたまり場になっている。かなり広く、川は数キロ先の漁港へと続いている。ときどき運ばれて来る潮風は4月の穏やかな匂いとあいまって実に心地好く、適度に太陽が芝生を暖めてくれるので、授業の終わりの軽い昼寝には最高の環境だ。
「ボクだって男なんだよ。最近、毛も生えて来たしさ」
ブツブツ言いながら、鈴木が上半身だけ起きた。
「マジ?お前とうとう生えたの?オレ、まだなんだけど」
「じゃ、ボクのほうが男だね」
「関係ないだろ、毛の生える早さは。それよりお前、アレ覚えた?机にこすりつけるやり方と、床にこすりつけるやり方と、オレは2つ知ってんだけど」
「知らない。なにそれ?」
「知らないのかよ。てっきりうちのクラスの男子はみんな知ってるもんだと思ってたけどな。オレなんか小4の頃にはもう覚えてたぜ」
「なに?早く教えて」
「口で説明すんのは難しいんだよなあ。実際にやってみないと伝わんねえ」
「ここでできる?」
「いや‥‥‥無理だな」
「なんだあ‥‥‥」
「ああ‥‥‥‥」
そんな話をしているうちに、本田は自分の下半身が少しウズウズしているのを感じ、鈴木と逆方向に寝返りを打ってつぶやいた。
「帰ったらやるぞ」
「なにをやるの?」
足元から、急に女子の高い声が聞こえた。
「ひいいっ!」
思わず本田はのけ反って、後ろ向きに起き上がった。
「なにをやるの?」
女子は長い栗色の髪を左右に揺らして、不思議そうな表情でこちらを見ている。制服ではなく、体操着だ。1-3。えーと、同じクラスだけど、なんていう苗字だったかな、この人。まだ4月なので、名前をよく覚えていない生徒もいる。
「ああ、スバル」
鈴木が、女子に向かって手を振る。
「なんだお前ら、仲いいのか?」
スバルって、苗字なのか下の名前なのかわからないな。もし下の名前なら、鈴木はこの女子とかなり親しいのだろうか。
「別に、そんなわけじゃないけど。小さい頃から家近いだけで」
本田の心の中の問いに対して、スバルが明確な答えを出した。彼女と話すのはおそらく初めてだ。というか、中学生になってからの知り合いの女子と学校外で話すのは、たぶん初めてのことだ。
「で、なにをやるの?」
再びスバルが興味ぶかけに笑いかけた。内心で本田がどんな言い訳をしようか考えるより前に、あっさりと鈴木が言った。
「宿題」
「あ、そう。じゃ、わたし、部活だから」
体操着を揺らしながら、スバルはこちらに手を振って、あっさりと去っていった。鈴木も、塾があるからと言ってそそくさと帰った。塾があるのになぜわざわざ昼寝をしに来たのだろうか。変なヤツだ。もしかして、女子と仲が良いアピールを見せつけたかったのか?などという被害妄想が巻き起こった。
よく考えたら、彼女が話しかけていたのは元々の知り合いの鈴木に対してであって、自分はたまたまそこにいただけなのではないか。そうだ。スバルの体操着のことは忘れよう。帰って宿題をしよう。本田はそう固く決意した。でもその前に、河川敷でもうひと休みしよう。
その後、ちょっとエッチな夢を見てしまったことは内緒だ。特に、鈴木には絶対に言わない。
中学生が河川敷で寝てるだけの話 @pullerna
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。中学生が河川敷で寝てるだけの話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます