銀行強盗の最終面接でわかる資質

ちびまるフォイ

やっぱりあなたは合格だ!

「銀行大学から来ました、金行です!

 本日は面接のほどよろしくおねがいします!!」


「はいよろしく。それで君はどうして銀行強盗になりたいと思ったの?」


「はい、子供の頃から銀行強盗に憧れていて

 将来は銀行強盗に関わる仕事につきたいと思っていました!」


「銀行強盗のほかに受けているものはある?」

「いえ! ありません!」


「ふぅーーん……。なんかちょっと、わざとらしい気がしますね」


「わざとらしい、ですか?」


「それじゃ質問を変えます。君は……優秀なIT成績を残しているね。

 なのに、どうしてわざわざ銀行強盗の一味であるうちを選んだの?」


「はい! 御者おんしゃの強盗一派の理念に深く共感したためです!」


「共感、ねぇ……」


銀行強盗先輩は手元の資料に三角のマークをつけて辛口評価した。


「いいかい、銀行強盗というのは正直でならなくてはいけない。

 シンプルで正直者。それが強盗としての鉄則だ。なぜだと思う?」


「近所の人から怪しまれない、とかでしょうか」


「ちがうちがう。要求を簡潔に伝える必要があるんだよ」


「はあ……」


「強盗に入られたパニック状況において、こちらの要求を伝え

 主従関係をハッキリさせるためには正直かつ簡潔な言い回しが必要。

 くどかったり、わかりにくい言い回しは向かないんだよ」


「べ、勉強になります……!」


「君は真面目で努力家だが、今のところ強盗の資質は感じないね」


「そんな……」


「圧倒的に怖い顔面があるわけでもない、

 その逆に怪しまれないような風体でもない。

 そこそこのイケメンで仕事もできるみたいだから目立ってしまう」


「ダメでしょうか……」


「銀行強盗というのはプロフェッショナルな少数集団なんだよ。

 だから新人をおいそれと追加して教育できる状況でもない。

 というわけで……」


「待ってください! この面接だけで僕のすべてを判断しないでください!」


「しかしねぇ……」


「お願いします!」


希望者の熱意に押されて強盗実践をすることになった。

銀行強盗セットが組まれて、銀行員を面接官が務める。


「それじゃ、銀行強盗をお願いします。

 姿とか準備できたら自動ドアを抜けて入ってきてください」


しばらくして希望者が強盗のふん装と準備を整えて入った。


「おらぁ! 全員動くなーー! 金を出せ!!」


「待て待て待て。ストップストップ! なんでパンストかぶってるの?」


「え? でも銀行強盗ってこういう……」


「仮にね、仮にだよ? 仮に強盗に成功して外に出たとして、

 パンストかぶったまま逃走するの? 完全な不審者でしょう」


「……あ」


「"あ"じゃないよ。それに金を出せっていうけど、動くなって言った後に言ってるよね。

 金を出すために動いた人が、動いて良いのかわからなくない?」


「う……」


「"う"でもないよ。もうこれでわかっただろう。

 君には銀行強盗は務まらないよ。向いていないんだ」


「そんな! 待ってください! 話を聞いてください!」


「駄目だ駄目だ。君のように銀行強盗のアウトローな雰囲気に憧れて志願する人は後をたたないが、憧ればかりが先行してまるで使い物にならないんだよ」


「努力します! 誰よりも勉強すると約束します!」


足にからみついてすがる希望者を面接官はふりほどく。


「ええい、離したまえ! 別に君が悪いと言っているわけじゃない。

 単に君にはこの仕事が向いていないというだけなんだよ」


「向いていないからって、諦める理由になりません!

 銀行強盗が第一志望なんです! どんな仕事もやってみせます!」


「銀行強盗は一度でも失敗したらアウトなんだよ。

 勉強も努力も関係ない実力主義のしごとなんだ!」


「そこをどうにか!」

「諦めっ……ん?」


面接官はふと希望遮音吐いた言葉を思い出した。


「君、さっき第一志望と言ったよね。

 最初に他に受けているものはないと言っていなかった?」


「えっ……」


「まさか、嘘をついていたのか」


希望者はついに土下座した。


「嘘をついていたことは謝ります!

 どうしても強盗になりたかったんです!!」


「君は不合格だ」

「そんな!」


「嘘をつきたくなった気持ちもわかる。

 だがね、銀行強盗というのは常にお互いの信頼感が大切なんだ。

 いつ同じ仲間が裏切って独り占めしようとするのか疑心暗鬼になるものだ」


「はい……」


「自分をよく見せようと仲間となる人間に嘘をついたりするのは

 お互いの信頼関係やチームプレイに亀裂を生む可能性がある。

 やはり、君には銀行強盗としての才能はない。諦めなさい」


「すみません……」


何度も食い下がってきた銀行強盗希望者だったが、

自分がまいたタネによる自爆だったのでこれには反論できなかった。


希望者はシュンと肩を落とし、最初のときよりも一回りほど小さくなったように見えた。


「本日は面接、ありがとうございました……」


夢破れた希望者は深々と銀行強盗に頭を下げた。

いろいろひと悶着あったことで愛着がわきはじめていた面接官は最後に訪ねた。


「君の能力とここでの経験は他業種でも活かせると思っているよ。

 これは私個人の興味からだが、君はこれからどうするつもりかな?」



「銀行強盗の他に受けて合格した銀行の強盗警備システムの会社で働きます。

 今回の経験を別の職場でもしっかり活かしていきます!!」

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