第22話 取り調べ6

202×年2月中旬


「宇都宮君、新聞だけの情報でしかないが、危険はなのかい?」


と、那珂湊教授は聞いた。


「答えることはない。私はあなたと根比べを命じられている。遺伝子改造治療はどこまでやった?誰にやった?その技術はどこに保存してある」


自白剤も、拷問も効果がない那珂湊教授に対してできる事は対峙して毎日毎日聞き取りをすることだけだった。


「拷問の時に出た血で遺伝し解析しているのだろ?」


「あぁ、していますとも。していますが、今までと全然違う遺伝子構造になっている。なにがどのように影響を与えるのかがわかっていない。わかるまでには時間がかかりすぎる」


「スーパーコンピュータを使ったとして5年はかかるさ。私はその研究にこの命をかけてきた。全てだ。すべてを賭けて子供を救いたかったからな」


那珂湊教授本人のDNA解析は一から全ておこなわないとならないほど、複雑且つ類似する物がないほど未知の物化していた。


「それより、今、流行っている新型強毒性インフルエンザの遺伝子構造を私に見せる気はないか?私なら、力になれるはずだぞ」


「それで司法取引をしようというのか?」


「いや、医者として、遺伝子研究の専門家として、真面目に対処に協力しようと言っているのだ。遺伝子構造を見れば効果のある薬も推測出来るかもしれない」


「そんなことは疾うに始めている。強毒性インフルエンザが流行したときにと国が備蓄しておいたXバースターの治験投与を開始した」


5年程前、鳥を媒体として移る強毒性インフルエンザが確認された。

それに対して日本国は新型インフルエンザ用特効薬Xバースターを備蓄していた。


Xバースターは強毒性インフルエンザより先に人間細胞に入り込み、強毒性インフルエンザの増殖を抑える薬だった。

ただ、副作用が強く、時に消化器官に重傷の後遺症を発症させる可能性があり、使われてはいない薬。

緊急時用の備蓄薬。


「そうか、あれを使うか」


「那珂湊教授も、あの薬の開発には参加していましたよね?効果は知っているはず」


「あぁ、よく知っている。インフルエンザなら間違いのない薬にはなっている。ただ、なんだか今回の病原菌は今までと違う気がしてならないんだよ。遅くなる前に一度詳しいデータを見せてくれないか?もしかすると変異し続けるタイプなのかもしれない。そうなると厄介だぞ」


「誰が冥府魔道に落ちた者の手を借りるか」


と、捨て台詞を吐いて宇都宮秀男は取調室を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る