第16話 悪魔の行進

 那珂湊教授に集中するあまり、周りを見ていなかった宇都宮秀男は休んでいる間、情報を取り戻そうと厚生労働省の職員用情報ページを確認していた。


病院で起きた医療ミスや、薬害の情報が書かれていたページを流し読みして行く。


すると、部下の山田と鈴木が噂していた陽華人民共和国で発生している重症化する風邪の情報が目に留まった。


「感染経路不明?感染者5000人確認、死者800人?未知の病原菌・・・・・・不明?なんだ、これは?」


日本政府が掴んだ情報だけで驚愕の数値が出ていた。


「陽華人民共和国は新型インフルエンザが発生と発表?流石にこれだけの数が出ているとなると、もみ消すことは出来ないか。新型インフルエンザでこれほど一気に出るのか?」


と、読み進めていくと一人の医師が報告した機密にされている文書が出てきた。


「新型インフルエンザにあらず。未知の病原菌。すぐに都市封鎖するべきです」


「・・・・・・これが本当ならすぐに国を閉ざさなければ大変な事になるぞ。この医師にコンタクトを取るように感染症対策班に連絡をしなければ」


と、宇都宮秀男は感染症対策課の同期に連絡をすると、


「今、忙しい、要件を手短に頼む」


「陽華人民共和国の病原菌は危険な臭いがするぞ。すぐに対策を」


「そのことか・・・・・・今、必死に情報を集めている。これは大流行になるかもしれないぞ。お前も気を付けろ。もう、日本国内でも確認されているからな。非公表だが」


と、電話は切られた。


「何をどう気を付ければ良いんだよ。今は未知の病原菌が発生したのがわかっているなら、国を閉ざさねば・・・・・・そんなことは無理か。オリンピックイヤーだの訪日外国人客を増やそうなどと言っている今の日本、そんな決断を出来る政治家はいないな。野党と言えば兎に角、政権批判、建設的な対案など出して良い国にしようと一切考えない国。まともな政策もないのにただただ政権を取りたい野党。数年前、無能政党のせいで酷い目にあったな。スーパーコンピュータ開発でさえ『二位じゃだめなんですか?』などと、科学の進歩すら否定するのだから。あんな者に国を任せてはいけない。あの時中止したスーパー堤防だって作っていれば、助かった命も多かったのに・・・・・・民主主義ってなんなんだろうな・・・・・・」


と、パソコンの画面を見ながらタバコを一本吸った。


日本は観光資源は元々から豊富で、外国人客を呼び込もうとすればいくらでも呼び込める下地はあった。

今までは国内観光客で観光関連事業も潤っていたが、度重なる不況の影響と少子高齢化の影響から先細りとなり、それを外国人観光客で穴埋めしようと舵を切ったばかり。

たまたま、それが上手くいっていたが、それは諸刃の刃。

戦争や、世界的不況に陥ったとき観光業は真っ先にダメージを受ける。

そうなれば街には失業者があふれ、日本は大不況に陥る。

外国人頼みは危険な商売だ。


宇都宮秀男はそんなことを考えながら、今の医薬品、医療技術があればどうにかなるだろうと、このときは少々の期待を持っていた。

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