第13話 悪魔の噂

 取調室を出た宇都宮秀男は缶コーヒーを買って喫煙室に行くと、久慈川拓馬を取り調べしていた部下二人が先に休憩にと来ておりタバコを吸いながら缶コーヒーを飲んでいた。


山田と鈴木だった。

全く話そうとしない久慈川拓馬をどうしようかと作戦を考えていた。

自白剤が駄目なら情に訴えかけるか?それこそ、カツ丼でも出して餌で聞き出そうなどと、考えるほどに悩んでいた。


そこに宇都宮秀男が入ってきたので山田と鈴木は、一度違う雑談で落ち着こうとした。

仕切り直しだ。


「部長、耳に入っていますか?」


と、タバコを消し宇都宮秀男に言う、山田。


「なにをだ?私は那珂湊教授に付きっきりだからな」


と、実際那珂湊教授の取り調べの全権を与えられていた宇都宮秀男は、ほとんど署内に泊まり込み、那珂湊教授の取り調べとわずかに残っていた物的証拠を調べる日々が続いていた。

その為、報道もテレビを食事の時に見るくらいだった。


「いや、同期が陽華人民共和国で重症の風邪症状の患者が多数報告されている情報があると調べているらしいのですが、どうやら陽華人民共和国がもみ消しているようで」


「重症の風邪か?ん~大方、新型インフルエンザか鳥インフルエンザでも出たのではないか?それなら、対インフルエンザ治療薬の備蓄があるから日本は問題ないな」


「だと良いのですが、なんだか情報操作が手が込んでるようで」


と、鈴木も言う。


「それは感染症対策課に任せておけば良いことだ。私達は今、目の前に悪魔に魂を売った男達と対峙しているのだからな」


と、言うと、


「本当、御自身の家族だけに使って内密にしていてくれたなら黙って見過ごせたものを」


と、山田は再びタバコに火を着けた。


「僕は・・・・・・難病が治せる技術が手に入ったなら使うべきだと思います。ただ、那珂湊教授の暴走したやりかたは許せません。科学の箍を外してしまうなんて。ちゃんと倫理審査委員会を開いて使うよう管理するとか手順を踏むべきです」


と、鈴木は那珂湊教授の技術に一定の理解を示しながら、使い方の暴走を許せないでいた。


「まぁ、なんにしても、どこまで出来るのか、そして誰に使ったのか、聞き出さねばならない。子供達の行方は、まだわからないのか?」


「はい、そちらは外務省が必死に探していますけど、スイスまでしか足取りは掴めなくて」


「スイスか・・・・・・那珂湊教授の味方をしそうな者が思い浮かばないな。そこから陸路を使って移動したか?」


と、宇都宮秀男は二本目のタバコに火を着けていた。


「僕の勝手な推測なんですが、やはり独裁者が支配する国のほうが那珂湊教授の研究に興味を示すと思うんですよね。遺伝子改造のすべてを出来るとしたなら」


と、鈴木が言うと、


「それは、不老不死が出来るなら多くの権力者や金持ちは手助けをするだろうな。これは少々どころか、かなり厄介だぞ」


「はい、彼らが手を貸しているなら、子供を隠すなんて容易いですからね」


と、鈴木は缶コーヒーをゴクリと飲んだ。


「仕方ない、最終手段を使うか・・・・・・」


宇都宮秀男の言葉に山田と鈴木は顔色を変えた。


自分は使いたくないと拒否を示すような重い表情だった。

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