異世界廻転ノ剣。

まだ未定

廻転の剣 

村の司祭は神妙な面持ちで声をかけた。いつもと違うその雰囲気に思わず唾を飲み込む。

「単刀直入に言おう、君は勇者だ。その証拠に二の腕には勇者の痣があるであろう」

これはなんのギャグかと思ったが、確認したところ本当に痣があった。身に覚えのない痣が!

「よいか、君はこれから勇者の剣を手に入れ魔王討伐をすることが使命である。勇者の剣を手に入れ魔王討伐をすることが使命である!」

司祭でも大事な事は2回言う。

「とは言ってもさ、勇者の剣なんてどこにあるんだよ」

「ああ、それが少しばかり厄介でな、ほれ、人間に化ける魔物がいるだろう。どうやらあれが例の剣を勇者に化けて奪ったそうじゃ」

「ん、待てよ。勇者はすでにいるのなら俺は勇者じゃないんじゃないか」

「なあにを言っている、勇者なんてな国に一人はいるもんだ。他の国の勇者がヘマをやった訳じゃ」

「なるほどな、つまり魔王討伐にはまず勇者の剣をその魔物から取り返す必要があるって事だな」

「ああ、その通りじゃ。物分かりがよいな」

「まあな」


勇者は旅に出た。やがて戦い慣れ、世界を巡り、出会いと別れを繰り返し、そしてあの魔物に出会う。

「よお、やっと初めましてだな」

魔物の顔は一瞬にして強張る。変身魔法に特化したその魔物は戦いには弱いのだ。正体を見破られた以上その種は逃げる、もしくは諦めて死を認めるしかない。故に勇者の息をも付かぬ連続斬りに一瞬にして破れた。

「見つけるまでに手間取ったが出会ってしまえば瞬殺だったな。さて次は魔王への手掛かりを探すか」

そして勇者の旅は次へのステージへと歩みを進めた。


勇者は勘違いをしていた。かつて旅の途中、胡散臭い占い師が言っていた背後に潜む者の存在の事は忘れていた。

二の腕に同じ痣のある男を見たので思わず声をかけた。彼も勇者かあるいは……。

「なぁ、おま」

男がこちらに振り向いた瞬間体が固まった。それどころか向こうは剣を抜きこちらに向かってくる。

「おやおや、どうしたことかネズミからわざわざ声をかけてくるとは。勇者の剣もしっかり持ってるな。お前のような魔物はしっかり痛みつけてから倒してやるからな」

いくら殴られようが切りつけられようが声が出ない。体が動かない。激しい痛みも徐々に鈍くなり意識が遠のく。


魔王城にて今日も戦闘情報報告が行われる。

「本日、仲間の死者124名。倒した人間33名、勇者1名以上です」

会議室が湧く。

「おお、今日も勇者をやったのか」

「さすがですな」

「帰り飲み行くぞー」

刹那的に盛り上がった会場は沈黙に戻る。魔王が話すのだ。

「勇者による勇者殺しのループ、すなわち廻転の剣がまたも勇者の魔の手から我々を救った。人間に対して有効打がなく強力な魔法、大軍を持たない我々だがこれこそが我らの叡智。引き続き勇者の早めの発見と呪いをかけることを徹底してくれ」


                ーーENDーー

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異世界廻転ノ剣。 まだ未定 @poyoooo

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