藤とミモザと金木犀

@htr_mc

第1話

別れる男に、花の名を一つは教えておきなさい

花は毎年必ず咲きます

川端康成の本の中の一節だ


..


「じゃあ、また」

運転席にいたあなたはそう言った

またなんてないくせに、いつもの癖で


「また、はないよ」そう返事したのが

私の精一杯の強がりだってことに

一生気が付かないで欲しいと思った

ふられたのは私なのに、

あなたは一瞬複雑な表情になって、

「…うん」とだけ答えた


駅に向かう私の背中を追う視線を感じたけど

振り向かなかった 振り向きたくなかった

別れた彼女の最後の姿になるかもしれない

その後ろ姿を、あなたはどんな気持ちで

見てたんだろう




初めて彼と会った時、

(あ、全然タイプじゃないな)と思った

私のタイプは、

背が高くて、色が白くて、目は一重

髪の毛は前髪重ためのマッシュで、

洋服も適度におしゃれ

学生時代はよくモテたでしょうと聞かれて

そんなことないよ、という返事に

そんなことあるよと卑屈に返したくなるほどの容姿を持ち、学生時代、ヒエラルキーの

上位にいながらも、騒がず輪のいちばん

外側で笑いながら見ているひと

(そういう人が、実はいちばんモテるのだ)

けれども学内に彼女は作らず、

作っても先輩か、他校の美人と決まってる

あくまでも理想のタイプだから、

そんな人が凡の凡である私を好きになることはあり得ないと分かっている、けど


彼をその"私のタイプ"に当てはめるとしたら

僅かに髪型の項目だけはクリアしていたくらいで、あとはほとんど真逆といっても過言ではなかった



それでも私は、恋に落ちた

たった3時間ほどのデートで、あっけなく

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