身長15センチの彼女

木板 実

第1話「小さな出会い」

1ー1

 それは、自室のベッドで横になって本を読んでいたときのこと。

「……あ、しまった」

 なんとなく体を反転させようと全身を少し捻っただけなのに、その弾みで愛用のしおりがベッドから落ちてしまった。

「私が取ってあげよっか?」

 床に座って編み物をしてる少女が、僕にそう提案する。

 最初は断ろうとしたが、少し逡巡した後、お願いすることにした。

「そうだね、頼める?」

「良いよ〜」

 使っていた裁縫道具の針を針山に差し込むと、気の抜けた返事をして立ち上がる。

 そしてこちらを向いた彼女の目の前に、僕は右手を伸ばす。その開いた手に彼女は手を添えると——パッと飛んで、

 ペタッと手の中で女の子座りをする少女を落とさないよう気を付けつつ、ベッドの壁側——栞が潜り込んでしまった隙間の前まで運ぶ。

「どう?入れそう?」

「余裕だね」

 即答して、躊躇いなく。角度的に僕には奥が見えないが、数秒してそこから栞がひょっこり出てきた。

 覗き出した部分を摘み引っ張ると、手応えを僅かに感じる。ゆっくり持ち上げると、案の定彼女が栞の下に

「流石だね、ありがとう」

「どういたしまして。このまま元の場所に戻してくれる?」

 頷き、栞ごと少女を床に連れて行く。

 床に着地すると、自分のワンピースを両手でパッパッと軽く叩く。ベッドの隙間で少し捕まえてしまったほこりを払っているのだろう。

 そして、何食わぬ顔で歩き出し、を針山から引っこ抜き、再び裁縫を始める。


 僕の部屋の床で、鼻歌交じりに裁縫を楽しんでいるのは——身長が栞と同じくらいの少女だ。

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