番外編4 早く帰りたいがゆえにじゃんけんに勝つ。

「いいか、皆、始めるぞ・・・」

放課後、教室に残りし者たち。

今から行われるのは、そう、運命をかけた戦いだった。


時は遡ること数分前。

「駿ー、帰ろー」

「私も支度できた・・・。だから、一緒に帰りたい。」

「じゃあ、帰―――」

ガラガラガラ。

「おうみんな、ちょうどいいところにいた。」

「虹岡先生?どうかしましたか?」

黒川が問う。

黒川たちのクラスの担任の虹岡先生だ。

第3話以降の登場である。

「みんな久しぶりだな!」

「いや、ほぼ毎日会ってますが・・・」

「そうだよな・・・。でもなんか久しい感じがしてな・・・」

虹岡先生。あなたの存在を忘れていたわけじゃありません。名前は忘れていましたが。


赤海が問う。

「先生、何か用ですか?」

「ああ、お前たちに頼みたいことがあってな。」

頼みたいこと。

それは昇降口の掃除当番だった。

今日休みだった生徒の代わりにしてほしいらしい。

掃除当番になった生徒には先生からのジュースの奢りという条件付き。

掃除して、ジュースを奢ってもらえる。なかなか悪い条件じゃない。

しかし、それでも掃除に乗り出すものはいなかった。


なぜなら、彼らは帰宅部であるからだ!

帰宅部の多くは早く家に帰りたいがために、部活動という青春の醍醐味ともいえる活動を回避した者たち!

中には家庭的、勉学的事情からやむなく帰宅部を選んでいる生徒もいるが、少なくとも、黒川のクラスにはそんな生徒は一人もおらず、皆、自分に甘いがために帰宅部を選んだ者たちだった。

そんな帰宅部にジュース1本などでは動くはずもなかった。


そして協議の末、行われることになったのは『じゃんけん大会』!!

もっとも公平で、平等だ。

誰もがそう思う、はずなのだが・・・。

ここに一人、じゃんけんを公平だと思ってない人間が一人いた。


この男、黒川駿だ。

実はじゃんけんがめちゃくちゃ弱いのである!

じゃんけんなんて所詮は運ゲーだと世間一般では言われているが、何か策略があるのではないかと、この男の負けっぷりを見ていれば思ってしまうくらい弱い。

100回じゃんけんすれば90回以上は負けるほどの弱さなのである。

じゃんけんが弱すぎるがゆえに、黒川駿は様々な損を味わってきた。

みんなが嫌がる役には必ずなってしまうし、給食の人気メニューのじゃんけんには一度も勝ったことがなく、おかわりなんてできたこともない。

そう、黒川駿がじゃんけんが苦手という、この世で唯一と呼べるかもしれない存在なのだ。


しかし、黒川、今日は微塵も負ける気がない。

高2になってはや1カ月半程。よく思い返せば、今年は何かとついている!

時々、10円拾うし、アイスももう2回当てている。

そしてなにより、美女4人ほどと接する機会が多いのだ。

人生初の出来事。もうこれは今までなかった運がこちらに赴いているのだと、黒川は解釈している。


「よし、いくぞ皆・・・」

ここに居合わせているのは、黒川を含めた男子4人に、赤海、白谷を含めた女子3人。

第一戦、開幕。

「「「「「「「じゃんけんぽん!!!!!!」」」」」」」


黒川、赤海、白谷、敗北。その他モブキャラ、勝利。

「ま、まあ、次勝つし、今のは練習な・・・」

黒川、強がってはいるが、内心めちゃくちゃ焦っている。

(神様!?今年は運きあがってきてるんじゃなかったんですか!?僕、帰ったら観たいアニメあるんですよ!!早く帰りたいんですよ!!お願いします神様!早く帰らしてください!!)


赤海に白谷。二人の考えることは同じだった。

((早く帰って、『愛はつづくよ、永遠とわまでも』が観たい!!!))

そう、今の時期、女子高生は『愛永遠』に夢中なのである!!

早く帰宅し、夕食も入浴も済ませ、ゆったりとキュンキュンしたいのである。


3人とも目的の系統は同じ。

はたから見ればくだらない理由だが、本人からすれば、かなり大事だ。

そんな運命をかけた3者の戦いが今、幕を開ける。


「「「じゃーんけーんぽん!!!」」」


案の定、黒川敗北。

「やったー!よし帰ろ!陽花里!」

「うん!早く準備しなきゃ!」

「神様、どうして僕を見捨てたんですか・・・、ぐすんっ・・・」

「じゃあ、黒川よろしくな。終わったら職員室に顔を出してくれ。ジュース代渡すからな。」


ガラガラガラ。

ロリが一人。

「随分にぎやかだけど、何かあったの?って誰がロリよ!!」

「ああ、いちご・・・。話し聞いてくれよ・・・。ロリ?」

「いや、気にしないで・・・。てかダメよ。私今から掃除なんだから。」

「掃除?どこの・・・?」

「昇降口よ。先生に任されたの。」

「神様ありがとう!僕は一人じゃなかった!」

「な、何よキモイ!何言ってんのよ!」

「とりあえず行こうぜ!掃除だ掃除!」


シーーーン。

「「・・・」」

少し複雑な、赤海と白谷であった。

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