しゅうまつはしょてんにいってあれをかおう
さかえたかし
第1話 レンタサイクル(無料)
目が覚めた。
スマホのアラームを止めて時計を確認する。8時46分。予定通りの起床。
ロフトから降りて吊り下げてあるカッターシャツを適当に選んで袖を通す。着た後で「どうせ店は開いてないんだからカッターシャツを着る必要無いんだった」と思い出すが、着替えるのが面倒なのでこのまま着る。
ズボンを履いて、ダウンジャケットを羽織る。もうすぐ冬が来るから、防寒は完全に。このご時世に体調を崩すのはなるべく避けたい。
家を出て、外を少し歩く。アパートの近くの道路を通る車はもはやほとんど見かけない。インターチェンジがすぐ近くなのでいつもたくさんの自動車が通っていたのが遠い昔のようだが、たった半年前の事だったなと思う。
目的地のバス停に着く。待っていればそのうちお目当てのバスが来るので、その間にスマホでSNSを見る。Twitterでフォロワーの小説家や漫画家がいつものようにくだらない事で言い合っていたり更新された漫画の感想を連呼したりしてホっとする。
その一方でずっとフォローしていたアカウントの人が「今のこの状況はアルメシア星人が侵攻してきたからだと何度主張しても世間は受け入れてくれない。現政権はアルメシアの首脳部と通じているに違いない」という文章を連投しているのを見て、泣く泣く彼をミュートする。
そんな感じでスマホをいじっていたが、バスが中々来ない。
ふと時刻表に目をやると、昨日までは無かった張り紙がある。
「××月×日よりこちらのダイヤで運行いたします。皆様にはご不便をおかけしますがご了承ください」
はっとして新しい時刻表に目をやると、そこには昨日までより本数が半減したダイヤがあった。
目的地に向かうバスまであと一時間近く事を確認する。
「まじかー」
思わずため息をつく。さすがに一時間待ちはつらい。
しょうがない。意を決すると歩き始めた。もちろん目的地まで歩くつもりはさらさらない。
少し歩くとスーパーが見えてきた。近づくと駐輪場に大量の放置された自転車がある。そのうちのいくつかには鍵が掛かっていない。
「借りまーす」
小さく口にすると適当な自転車を選んで走り出す。天候は良好。自転車通勤には絶好の日和。道路にも歩道にも対向車も人もおらず、快調に飛ばす。
途中、コンビニに寄る。三軒目で従業員のいる店に当たって、今日は運が良いと心が浮きだつ。
五十分程自転車を飛ばして目的地に着く。バスを待っていた方が疲れないし良かったんじゃないのかという自分へのツッコミは無視する。
目的地のビルは三階建て。一階はフィットネスクラブで、二階と三階が書店。
用があるのは三階。ビルの脇にある従業員用の出入り口にICカードをかざして入る。
通路を通ってエレベーターで三階まで上がる。
売り場の中を通って事務所まで進む。三階は専門書と洋書、文庫本新書とコミックコーナーがフロア内に展開している。ちなみに二階は新刊と雑誌と実用書。
事務所についたのでドアを開け、入る。タイムカードを推して出勤する。
「おはようございます」
まあまあ大きな声であいさつ。返事はなし。うん、今日も一人か。気は楽だ。
そして一日の勤務が始まる。
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