第3話 はみ出し者たち②
「だいたい勝吾だっていつもコンビニ弁当じゃん」
「こーゆーの食わないと力が出ないだろ。バイクのパーツは金かかるんだよ」
勝吾は笑いながら白米を口に運ぶ。
彼の見た目は10割不良だが実際は、目つきの悪さ6割、頭の派手さ3割、真面目1割という人間だった。
故に不良仲間などおらず、ただのバイク好きなのだが、その筋の知り合いがいるとか小学生の時から教員を脅している。などの根も葉もない噂が席巻していた。勿論噂以上の真実などないのだが、クラスメイトが避ける理由には十分だった。
「葵はいつも手作り弁当だな」
カップをテーブルに置いた久瀬が言う。
「私は料理好きだから毎日でも問題ないの」
可愛らしい弁当箱に詰められている可愛らしい料理。ご飯部分にはデフォルメされた犬の顔が海苔やチーズで描かれ、綺麗に焼かれた卵焼き、マイクロトマトなどが弁当箱を鮮やかに彩っていた。
そんな可愛らしい物を作ったのは、女性と見紛うほどの男子。比較的校則が緩いため、腰の位置まで艶やかな黒髪を伸ばし、小柄なうえに顔の作り自体も可愛い女子高生に見えるので、一見すると女子生徒が男子の制服を着ているとしか思えなかった。
そして、彼がクラスに馴染めない理由もそこにあった。
愛想も良く人当たりも完璧な葵は、同性異性を問わず友人と呼べる人間はいた。しかしある時、クラスメイトの
「好きです。私と付き合ってもらえませんか?」
「ずっと前から好きだった」
「君を甲子園に連れて行きたい」
「貴女に私の作ったロリータ服を来てもらいたいの!!」
最後のは願望だが、そんな告白を同時にされた事に戸惑い全員を断った。その事がきっかけで、葵は誰のものでもない中立になった。
誰かが告白などしようものなら誰かにボコボコにされる。葵の自由意思は無く、まさにアイドルの体を押し付けられているので、もはや今の3人くらいしか気軽に会話できる存在は居なかった。
居場所が無い彼らは、何とか学校に居場所を作って過ごしていた。
午後の授業も退屈だった。教師が黒板に文字を書きそれをノートに写すという単純作業を繰り返し、教師の説明をノートに書き加える。
その日の授業が全て終了し、部活・委員会・帰宅など生徒が行動していく。
「さて、バイト行くか」
心志が席を立つ。
クラス内では様々な話しが飛び交っていた。明日は祝日のため、喜びの声を上げる者が多い。
折角だから遊びに行こうと誘い合い、陽キャの輪が広がっていく。クラス全員で遊びに行くとか言う話になり始めているのに気付いた心志は急いで教室から逃げ出した。
「はぁー」
大きなため息を吐くと、隣に敬輔がいて呟いた。
「リア充どもは何故群れたがるのか」
「リア充だから群れるのか、群れで居るからリア充なのか」
そんな哲学的な言葉が出てきてしまうほど、底知れない恐怖を感じていた。
すると、教室の出入り口付近から葵の声が聞こえた。
「ゴメンね。今日は用事があるから帰るね」
必死に引き留めようとするクラスメイトを宥めながら、扉を閉めた。
「はぁ」
小さくため息を吐く。
「人気者だな」
「僕は耐えられなかった」
敬輔と心志が笑いかける。冗談が言える間柄なので、嫌味には聞こえない。
「私だって苦労してるんだから」
クラスのアイドルはもう一度ため息を吐いた。
「帰るか」
心志が促し、2人はそれに黙ってうなずいた。3人が校門を通り抜けるという時、後ろから走る足音が聞こえた。
「お前ら、帰る前に起こしてってくれよ!」
勝吾が息を切らせながら並んだ。
「さっき起きたらクラスの連中が騒いでてよ、身体を起こしたら謝られたんだよ。起こしてゴメンってさ」
全員がそりゃそうだ、と納得した。見た目がヤンキーなヤツの寝起きなぞ恐怖だろう。下手をすれば殴られたりカツアゲされたり。彼の後ろに居るであろう仲間に襲われたらどうしようと考えるのは自然だった。
実際は寝起きが怖いこと以外は事実無根なのだが。
4人の日常はずっと続くはずだった。退屈で学校に大した居場所は無いが、辞めたりするような状況でもない日常。
しかし、彼らの日常は次の日に終わりを迎える。
アルバイトが終わり、家路に向かう心志の携帯が震えた。
「明日、遊びに行こう。か」
葵からの誘い。勿論、心志だけに送られてきたわけでは無く、全員に対してのメッセージだった。
みんな行くなら俺も行く。
そう打ちこむとすぐにリアクションがあった。
【俺も明日はバイトない】
【問題ない】
【じゃあ全員参加ってことで、駅前に10時集合ね】
それに了解と打って携帯をしまった。
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