※こいつら、お互いに好き合ってます

かどの かゆた

通信対戦

「死ね」


 イヤホン越しに届いたのは、明らかに不機嫌な声だった。


「いや、死ねって……」


 俺はコントローラーを操作し、試合結果を見る。画面に表示されるのは「You win」の文字。一試合を終えて、俺は短く息を吐いた。


「絶対私の方が速く必殺技出したでしょ!」


 夜中だというのに、彼女は音が割れるほどに大声で騒ぐ。頬を膨らませる彼女の姿が浮かんで、自分の口角が緩むのを感じた。


「俺のキャラの方が技の出が早いんだよ」


「なにそれズルいじゃん!」


「いや、それが長所のキャラなんだから、仕方ないだろ」


 苦笑して、ふと時計を見る。時刻は、もう既に日を跨ぎそうになっていた。


「もう一戦! もう一戦!」


 それにも関わらず、彼女は元気そのものである。まぁ俺も別に眠気があるわけではなかった。寧ろ、最近お気に入りのゲームをオンライン通信でプレイできて、テンションが上っているくらいだ。


「明日も学校だろ? 授業中寝んなよ」


 とはいえ、寝るのがあまりに遅くなるのも、良くない気がした。特に、俺達は互いにお世辞にも成績が良いとは言えないから、授業中に爆睡なんてしていたら大目玉を食らうだろう。


「大丈夫! 大丈夫だから! もう一戦!」


 彼女は「もう一戦!」と繰り返して俺に懇願した。

 まぁ、単純に悔しがっているだけなのは分かっているけども。

 俺と遊びたいがために騒いでいるのかと思うと、何だか胸の奥がむず痒い。


「仕方ねぇなぁ」


「やったー!」


 彼女が大袈裟に喜ぶ声を聞きながら、俺は試合開始のボタンを押す。


「……」


「……」


 少し長めのロード時間。

 俺達の間には、妙な沈黙が生まれた。


「……あのさ」


 その沈黙を破ったのは、彼女の方だった。

 少し息の混じった、小さな声。


「どうした?」


「私、めっちゃ下手くそだからさ。その……手応えなさすぎて、つまんなかったりする?」


「へ?」


 急に彼女が不安げに声を揺らすので、俺はきょとんとした。

 一体、どうしてそんなことを聞くのだろうか。


 少しの間考えて、思い当たる。


 多分、彼女は俺が時間を気にしたのを、ゲームを速く切り上げたかったからなんじゃないかと勘違いしたのだろう。

 確かに、彼女が初心者ということもあり、さっきからゲームは常に俺の圧勝だ。

 でも、別にだからといって俺がつまらなく思っているなんてことは無かった。それどころか、彼女とこうやって夜まで一緒に遊んでいるのが、嬉しくてしょうがない。


 ただ、それをそのまま伝えるのは、何だか癪な気がした。


「そう思うんなら、俺を倒してみろよ。何度だってボコボコにしてやるから」


 だから、冗談めかした口調で、俺は彼女を煽ってやった。


「むかつくーー! いつか絶対倒して、煽り返してやる!」


 彼女はそう宣言して、ゔ―、と犬のように低く唸る。


「……ふふ」


「……ははっ」


 それから俺達は、耐えられなくなって、互いに笑い出した。

 

 彼女が俺を倒せる上級者になるまで、何度でも。

 次は明日か明後日かは分からないけど、予定を聞いて、絶対誘おう。


「よし、勝負!」


 彼女がそう告げると同時に、ロードが終わり、ゲームは始まった。

 俺は姿勢を正し、コントローラーをきちんと持つ。


「絶対勝つからな!」


「こっちこそ!」

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