ハンターs'〜賞金稼ぎたち〜

きりうえほう

第1話 ハンター


「はぁはぁはぁ……あーもう、しつこいわね!」


 夜。

 栄えあるそのみやこでは、その日、ある事件が起きていた。


「探せ! 物陰から箱の中まで隈なくだ! あのお方はどこに隠れているかわからん!」


「「「「はっ!」」」」


 隊長の指示に部下の兵士たちが声を張り上げ捜索を開始した。

 各部屋を探しまわり、クローゼットを開け、木箱を開け、はたまた廊下に飾られた花瓶の中を覗き。

 いないいないと大騒ぎ。


 そして、騒ぎを起こした張本人は--


「んーもう! なんでこんな厳重なのよこの家は! まったく! 普段は門番があくびをしてるくらい暇そうにしてるじゃない!」


 庭の木陰からひっそりと様子を伺っていた。


「拉致が開かないわね。こうなったら強行……」


『ぎゃあぁぁぁぁ! に、荷物が崩れたあぁぁぁぁ!」


 突発をしようかしら。

 そう言いかけたその時、食糧庫の方から兵士たちの叫び声が聞こえた。

 大方自分を探していて荷物を崩したのだろう。

 そして、犠牲になった兵士たちを助けるため人の流れが変わった。


「ラッキーね! 今のうちよ!」


 少女は夜を駆け出した。

 その先にある--冒険と、出会いを求めて……。






 五月。初夏へと向かう月。

 暦は、遥か昔、異世界から召喚されたとされる勇者が、天文学の専門家たちを集めて決めたものだと言われている。


 そんな時季に、私は今、新しいことを始める--



『--お嬢様、今、なんとおっしゃいましたか?』


『明日、ここを抜け出すわ。そしてハンターになるの。迷惑かけるし、ワガママだって自覚はあるけど、でも……やってみたいの。本気で向き合いたい。だからリナ、私との契約を解除してくれない?』





 初めて来る町の市場は、王都に負けないと思えるくらい賑わっていた。

 もちろん、王都の方が凄いけど、気分よ気分。

 さてと……朝食はどれにしようかしら?

 賑わう市場の露店をキョロキョロ見渡していると


「安いよ安いよー! おっ、そこの黄髪のお嬢さん、どうだい俺んとこの串焼きは。今なら一本五千rgリガの串焼きが、なんとたったの500rgだ! お買い得だよ!」


 肉の串焼きを営んでいる店主のおじ様に声をかけられた。


「五千rgが五百! 凄い! そんなにお得だなんて! あっ、一本貰えますか?」


「えっ……あっ、はいよ」


 なぜか戸惑っている店主に五百rgの中銅貨を払い、串焼き肉をもらう。

 こういうのはお祭りの時にしか食べられないから新鮮ね。

 少し肉が硬いし、塩が効き過ぎだと思うけど、それもこの店の味って感じがして悪くないわ。

 と、お店前で味の評価をしていると、店主が私に


「お嬢ちゃん、どうだい美味いだろ? 明日もどうだい?」


 と言ってきた。

 商売の厳しさは、知人がいるからよく知っているけれど、こういう屋台を維持するのも大変なのかしら?

 とりあえず、このおじ様には私の思っていることを言いましょう。


「悪くはないけどもっと色んなものを見たいから、明日になったら決めるわ」


「そうか。まあ期待して待ってるよ」


 串焼き肉を食べ終えた私は、にこにこ笑う店主のおじ様に挨拶し、その場を離れた。



『八番席ぃぃぃ、今回飛び入り参加のハンター“ソル”! 勢いが! ぁ勢いが止まらないぃぃぃぃっ! 見る見るうちに皿のカレーが消えていくぅぅぅぅぅっ! 他の挑戦者たちを突き放すぅぅぅぅっ!』


 町の広場では、大規模な大食いイベントが行われていた。

 それにしても、実況をする人のテンションが高いわね。もう八番席の人の前にしかいないわ。

 その八番席、飛び入り参加のハンター“ソル”と言われている黒髪の青年は、他の挑戦者の一番多い人でも五皿なのに対し、既に十三……十四皿目に突入していた。

 私と同じくらいの歳なのに、凄いわねぇ。

 というか……


「朝からよくあんなに食べられるわね……」


 広場にある時計の針は、八時二十四分を指していた。

 見ているだけでお腹いっぱいになった私は、見物客の間隙を縫うように、広場を去るのだった。





「第四十三回大食い大会、優勝者はああああああっ! 一時間で三十五皿を制した! ソオォォォォルウゥゥゥゥゥッ!!!!」


 軽快なリズムを奏でるドラムの音と共に、実況兼司会者の男がハイなテンションで叫ぶ。


「優勝者のソルには! 賞金10万rgがぁ〜! 贈られます!」


 おおおおお!

 と歓声が上がり、口笛や拍手が、表彰台の上にいるソルに送られた。


「それではソル選手! 差し支えなければ、何か一言!」


 他の挑戦者が青い顔で口を抑え、腹をさする中、一位と書かれた表彰台に登り、賞金の10万rgを手にした男は、ケロッとしたまま……


「カレーが不味い」


 真顔でそう言い放った。

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