第26話
照れた様に笑うレイディエ殿下は、ちょっとシュトュルに顔を近づけ、内緒話でもするように囁く。
「大勢の人が見ている…と言うのもあるけど、シュトュルがより綺麗だから、緊張している」
シュトュルは、そんな事を言われて、自分の頬…いや、顔全体が熱を持つのを感じた。
「そ…そんな、私なんかより、レイディエ殿下の方が綺、綺麗ですし…ダンスも優しくリ、リードしてくれますし…」
「ふふ、ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
ワルツは終わり、ダンスの終わりを告げる。
2人は手をそっと離して、お辞儀をする。
周りにいた人々は拍手をする。
「シュトュル、あちらで少し休もうか」
「えぇ、そうですね」
レイディエ殿下がシュトュルの手を取ったその時だった。
ガシャンッ!!
一瞬にして、会場に巻き散る硝子の破片が、シャンデリアの光を受けキラキラと輝き、そして、同時に硝子の破片は人々を傷つけた。
ビュウッと、ガラス張りの窓は粉々に砕けた為、風が吹き、シュトュルのドレスの裾を揺らす。
そして、月光を背に現れたのは、どす黒い色の毛並みに、血の様な瞳をギラギラさせたライオだった。
少し、時を遡る。
それは、パーティーは筒がなく始まり、ワルツが切り替わったばかりの時だ。
明るく、楽しげな人々の様子とは違い、不機嫌な顔でテラスからホールを見ていた令嬢が1人いた。
不機嫌な顔の令嬢…ネーベルはシュトュルを見ていた。
(シュトュルが久しぶりにパーティーに来たと思えば…何があったのか、以前より堂々としてるし、それに…)
綺麗だな、と思った。見た目はもちろんなのだが、なんだかシュトュルのまとう雰囲気が、キラキラとしている様に感じた。
はぁ…と、溜め息をつくネーベル。
(レイディエ殿下に相応しい婚約者…ね。今のシュトュルの姿を見る限り、相応しく無いとは…言えないわね)
シュトュルとレイディエ殿下が踊る姿は、優雅で、蝶々が舞う様で、妖精達が戯れる様でもあった。
「いい加減、私もレイディエ殿下の事は諦めて、婚約者見つけなきゃ…」
そう口にすると、胸がズキズキとした。
(…なんだろう、この気持ち…)
すごく、すごく不快な感じ。
シャンデリアの煌々と輝く光とは反対に、ネーベルの足元の影は、底無しの沼の様に暗かった。
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