第25話
緊張しているシュトュルに気づいたのか、レイディエ殿下はそっとシュトュルの手を握る。
「大丈夫だよ、シュトュル。ちゃんと私がエスコートするから」
「あ、ありがとうございます」
シュトュルはレイディエ殿下にエスコートされ、華々しい会場へと進む。目映いシャンデリアの光を眩しく思いながら、シュトュルはレイディエ殿下の手を取った。
流石に、この国の第二王子とその婚約者に注目がいかないわけがない。
「シュトュル様だわ、珍しい」
「本当ね。それにしても、いつもより顔色がいいわね」
「レイディエ殿下と踊るのかしら?」
令嬢たちは、シュトュルの事を物珍しそうに見る。そして、扇越しから聞こえる声は様々だ。
いつものシュトュルなら、恥ずかしくて、恐くて、逃げたくて、顔をうつ向けただろう。
でも、今日のシュトュルは違う。
緊張で表情は少しだけ固いが、顔はうつ向かない。猫背になりがちの姿勢も、今日は胸を張って歩く。
そんな時、強い視線を感じて、シュトュルがそちらを見れば、ネーベルと一瞬、目が合った。
でも、すぐにそらされる。
(な、何だか睨まれていた様な気もしたけれど…一瞬だったから、わからないわ。気のせい…かしら)
シュトュルはチラリともう一度、見渡したが、もうネーベルは見つからなかった。
ワルツが切り替わる。
レイディエ殿下は改めて、シュトュルと向き合う。
「シュトュル、私と踊ってくれますか?」
シュトュルは少し、頬を赤く染めながら、頷く。
「えぇ。お願いいたします、レイディエ殿下」
シュトュルは、そっと手をレイディエ殿下の手に重ねる。
再びワルツが流れ出す。
シュトュルとレイディエ殿下を含め、回りの紳士淑女たちもワルツに合わせて、流れる様に踊り出す。
いざ、踊ってみると、シュトュルは緊張と驚きでいっぱいだった。
(練習の時より、踊りやすい…)
講師の先生と踊った時より、滑らかに体が動く。
これはつまり、レイディエ殿下のエスコートが上手だから、踊りやすいのだろうか。
(今までも何度か、レイディエ殿下と踊った事あるけれど、踊りやすいとか感じた事なかったわ…それもそうよね。だって、レイディエ殿下の事、知ろうともしなかったし、ダンスだって、ひとまず型になってれば良いって思って最低限しか練習してないもの)
いろいろと考えている内にシュトュルは手に力が込もっていた。
「シュトュル、大丈夫かい?」
唐突に、レイディエ殿下にそう声をかけられる。
「え、だ、大丈夫です!ちょっとだけ、緊張していて…」
シュトュルがそう答えれば、レイディエ殿下はふわりと笑う。
その笑みは、少しだけ、シュトュルの心に余裕を持たせた。
「一曲、踊り終わったら少し休もうか。実は、私も少しだけ、緊張している」
「え…レイディエ殿下も、ですか?」
シュトュルがそう言うと、レイディエ殿下は少し、照れた様な表情を見せる。
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