第23話
他の部屋に比べて物が少ない部屋で蓄音機から流れるワルツに合わせて踊る少女がいた。
(1・2・3・1・2・3・・・目線は殿方、顎は引く!)
シュトュルの耳にはワルツなど聞こえない。頭の中では、リズムと、踊る時に注意すべき事をひたすら呪文の様に呟いていた。
(シュトー、テンポがずれたわよ)
「シュトュル様、体の力をもっと抜いて下さい!」
レヴィアタンと社交術を教えてくれている家庭教師に同時に注意されるシュトュル。
「え!?ひ、ひとまず深呼吸?」
慌てシュトュルは踊りながら深呼吸をして体の力を抜き、蓄音機から流れる音を聞き直す。
(シュトー、目線は?)
レヴィアタンにそう言われてはっと、シュトュルは視線を足元から、家庭教師に合わせる。
「シュトュル様、頭を上げてはいけません。あぁ、顔を下げては駄目!そして、顎は引いて!」
「は、はいっ…!」
舞踏会に行く前に確認の為、家庭教師を呼んでやってみたら、問題点が幾つか見つかり今に至る。
シュトュルは、極力、舞踏会には行かない様にしていた為、ダンスは、それなりには出来るがそれなり程度だったのである。
「大丈夫かしら…シュトュル様」
部屋で待機しているメイドが心配そうにシュトュルを見つめる。
「きっと大丈夫よ。最初の時より、確実に上手になっているし…それに、元々ある程度は出来てたんだから」
隣にいたもう一人のメイドが力強く頷く。
「それにしても、ドレスの方もそろそろ決めないと…どんなドレスがいいかしら?」
さらに隣にいるメイドがそう呟く。
「そうですね。特に今回はシュトュル様から要望もありますしね!」
「そうそう!シュトュル様から要望があるなんてめったに無いもの!あの金の蝶の髪飾りに合うとびっきり素敵なドレスを選ばなきゃ!」
(…そろそろ、この恋物語も終演の時ね。シュトー、貴方のその初々しい、そして脆くて儚いその恋心、砕いてやるわ…ふふふ、貴方の絶望した顔は、さぞ、美しいでしょうね)
レヴィアタンは、メイドたちの言葉とシュトュルの想いを感じ、聞きながら、心の中でそう呟く。
シュトュルの銀髪が窓から射し込む太陽の光を反射し、シュトュルの動きに合わせて揺れる。
それは、まるで夜空に流れる流れ星の様でもあった。
(あぁ、舞踏会までには上手に踊れる様になるかしら…?いや、踊れる様にならないと、絶対に…そしてあの髪飾りを着けてレイディエ殿下と踊るんだもの!)
レヴィアタンの心の呟きなど知らないシュトュルは心の中でそう思うのであった。
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