第19話

「やっぱりこっちの色の方がいいんじゃないかしら?」

「いや、シュトュル様の銀髪にはこっちの色の方が良いでしょう?」

メイドたちは、シュトュルの部屋のクローゼットから色とりどりの衣装を引っ張り出す。

シュトュルは、すっかり回復し、いよいよレイディエ殿下とのデートの日が迫っていた。今日はデートに着る衣装などを決めており、シュトュルは朝早くから衣装を取っ替え引っ替えだった。

「ちょっと疲れたわ…」

シュトュルは少しため息をついた。

「シュトュル様、どれが良いでしょうか?」

メイドがいくつかの衣装をシュトュルに見せる。淡い黄色の衣装、水色に白いレースをふんだんに使った衣装、上品な藤色の衣装の3つ。シュトュルはうなる。

(…レヴィアタンは、どれが良いと思う?)

シュトュルは心の中でレヴィアタンに聞いてみる。

(そうねぇ、淡い黄色の衣装がいいんじゃない?レイディエ殿下の金髪を彷彿とさせるし)

シュトュルは、レイディエ殿下の姿を思いだし、少し頬が赤くなる。

「シュトュル様?」

メイドがシュトュルの顔色を伺う。

「あ、その、淡い黄色の衣装がいいかな?」

慌てシュトュルは淡い黄色の衣装を指差す。

「ほら、やっぱりシュトュル様もこちらが良いと言ったでしょう」

「う~ん、私はこっちの藤色の衣装が良いと思ったんだけどなぁ」

「はいはい!次はアクセサリーを決めるわよ!淡い黄色の衣装ならあれがいいんじゃないかしら?」

メイドたちは、さっさと衣装を片付け今度はアクセサリーケースを引っ張り出す。

シュトュルはソファに座りメイドたちが出したアクセサリーの数々を眺めながらレイディエ殿下とのデートを想像した。自然と口元が緩む。

(また、改めてレイディエ殿下に感謝の言葉を伝えなきゃ…デートに誘ってくれてありがとうございます、あの時、私を見つけて、助けてくれてありがとうございますって…)

レイディエ殿下とのデートが楽しみでしょうがないなんて生まれて初めてである。

そんな幸せな想像と同時に、レヴィアタンの言葉の数々を思い出しシュトュルはうつむく。


(…恋を壊す。別に、いいじゃない。

元々、レイディエ殿下の事は苦手で、レイディエ殿下の婚約者でいるのが辛くて、だから自殺しようとして…レヴィアタンに私とレイディエ殿下の関係が壊されたって別に…)

そこでふと、レイディエ殿下の様々な表情を思い出す。


胸が苦しくなった。


(嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ…っ!でも、何が嫌なの?わかんないっ…わからないよ…)


シュトュルは手をぎゅっと握る。

ふと、窓を見れば雲が太陽を隠し、辺りが薄暗くなる。


「レイディエ殿下…」

シュトュルは、そっとレイディエ殿下の名前を呼んだ。

だけど、この感情が一体、何なのかシュトュルはわからないままだった。

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