第17話

枝が折れる音と荒い息の音が聞こえたと思うとシュトュルの前にあの熊の魔獣が現れる。

「は、早すぎる…」

(レヴィアタン!逃げないとっ!!)

シュトュルは踵を返し走ろうとするが、後ろにはいつの間にか狐が待ち構えていた。

まさしく絶体絶命である。

(あ、あはは…レヴィアタン、不思議ね。ちょっと前は死にたくて自殺しようとしたのに…今は…まだ、私、死にたくないっ!!)

「シュトー、言ったでしょ。貴方の命は絶対に助けるからっ!」

『ファイア・シャルム・シュトュル!吹き飛ばせ!燃やし尽くせ!すべて焼けろっ!』

シュトュルは、レヴィアタンは、ありったけの魔力を使って炎の魔法を使う。

最初こそは、威嚇し襲おうとするが、炎が体に触れると狐の魔獣は慌て逃げ出す。

だけど、熊の魔獣は逃げないで襲おうとする。シュトュルは、後ろを振り向き狐がいなくなった道を走り出す。

ガッ!!

だけど、シュトュルの長い銀髪を熊の魔獣が掴み引っ張られる。

「きゃあぁっ!?」

シュトュルは地面に倒れる。

シュトュルの頬に雨と熊の魔獣のドロリとしたよだれが垂れる。熊の魔獣が手をあげる。

「っ!!」

シュトュルがぎゅっと目をつむる。

だけど、痛みは来ない。そのかわり…

ヴゥゥッ!!

野太い叫び声と血の香りがした。

シュトュルが目を開ければそこにいたのは一人の少年が剣を片手にそこにいた。

「れ、レイディエ…殿下?」

シュトュルがかすれた声で呟く。

「すまないっ!シュトュル!!遅くなった!」

熊の魔獣は、まだ、シュトュルたちを襲おうとする。レイディエ殿下は呪文を唱える。

『アイス・シャルム・レイディエ!冷やせ!固まれ!凍れ!』

レイディエ殿下が魔法を使用すると熊の魔獣の体がパキパキと音をたてて凍りだす。

熊の魔獣は体の氷を払おうと暴れ慌て逃げ出した。

「シュトュル!大丈夫かっ!」

レイディエ殿下がシュトュルの体を起こす。

そこで、縄で縛られた様な痛みが引き、シュトュルの体に自由が戻る。

「ひとまず…命は無事です…」

「シュトュル、肩がっ!それに足まで…っ!急いで手当てしなくてはっ…立てるか?」

シュトュルは足に力を入れようとするが、全く力がはいらない。

「す、すみません…う、動けないです」

シュトュルは、恥ずかしそうにうつむく。

「それもそうだよな…こんな傷だらけなんだ。すまない、私が運ぼう」

「え」

「私の背中に乗れるか?」

そう言ってレイディエはしゃがみ、シュトュルに背中を向ける。

「し、失礼します…」

シュトュルはおずおずとレイディエ殿下の背中に乗る。

レイディエ殿下の雨で濡れた蜂蜜色の髪がシュトュルの頬に触れる。

「シュトュル、しっかり私に捕まってくれ」

「は、はい…すみません、レイディエ殿下、このような事をしてもらって…」

「何を言う。君は、私の大事な婚約者だ」

その言葉にシュトュルは微笑む。

「この前も、似た様な事を言ってましたね…」

「あぁ…たしか、君が授業中に事故に巻き込まれた時だったか…あの時も、今も…君が無事で本当に良かった」

「レイディエ殿下…そういえば、どうやって私を見つけたのですか?」

シュトュルは、ふと疑問に思ってた事をたずねる。

「薬草を探していたら、顔色の悪いリスタ嬢と会ってね。君と一緒に薬草採取に行くのを見たから不思議に思ってね。それで、君を探してたら木々がいくつも倒れてて…それを追って君を見つけたんだ」

「そう、だったのですね…ありがとうございます、レイディエ殿下。見つけてくれて…」

シュトュルはだんだん眠たくなってきた。

(それにしても不思議…ちょっと前までレイディエ殿下の事は苦手で、どんな風に会話していいのかわかんなくて悩んでたのに…今は、レイディエ殿下と一緒にいると安心する)


ふと、空を見れば雨は止み、灰色の雲の隙間から太陽が顔を覗かせていた。




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