桃太郎、ニンジャに会う。
鈴木怜
第1話
「五十年ぶりだなァ、桃太郎さんよォ!」
苔すら見られないほどゴツゴツとした岩だらけの島で、桃太郎はかつて切り伏せた敵の姿を見た。
「お主はとうの昔に切り捨てたはずだがのう。この老いぼれがまた剣を交えるときが来るとは思わんかったわい」
齢五十を数えて、がたの来ている体に鞭を打つ桃太郎は、それでも並々ならぬ気迫をもって刀に手をかけた。
「一体どうやって
「ハハッ! それでこそ我が宿敵よ。再戦といこうではないか。ここで今一度、決着をつけてくれる!」
桃太郎と比べて二倍は大きいその背から、桃太郎の胴廻りよりも一回り太い棍棒を取り出した鬼は、盛り上がった筋肉をさらに膨らませながら、地を蹴った。
桃太郎ならば全力で走っても五秒はかかる距離が、たったの三歩で詰められた。
年を取ったからか、桃太郎の反応が一瞬遅れる。切っ先が動かなくなる。そしてその隙を鬼が見逃すはずもなく。
「ぐ、ぬうううううううううううッッッ!?」
振り下ろされた棍棒は桃太郎を押し潰しにかかった。すんでのところで一歩下がった桃太郎だが、体勢は崩され、桃太郎自身も後ろにふっ飛ばされてしまう。
「おうら!!」
先手を取った鬼は、速度を全く落とさないことで飛んでいった桃太郎にぴったりと食い付き、今度は腹を蹴った。桃太郎の口から、おおよそ人のものとは思えないような声が漏れる。
「ぐおおおおおおおおおおッ!!」
桃太郎の体が、天に舞った。くるくると回ったそれは、地に落ちる前にまた、鬼によって蹴り上げられる。うめき声と、歓喜に震える声が入り交じった。
「ふ、ふは、ふはははは! 桃太郎よ、お前がかつて連れていた犬や猿や雉は! 既にこの世にいないのだろう! 故に今一人なのだろう!?」
まるで鞠を蹴るように桃太郎を扱う鬼は、これで終いだと言わんばかりに、落ちてきた桃太郎を、棍棒で海へと打ち上げた。
なすすべもなく海へと叩き込まれた桃太郎は、朦朧とする意識と忌まわしき笑い声のなかで、精一杯の息を吸い込んだ。
☆☆☆☆☆
「うわ。おっちゃんが漂着してる」
「おっちゃんとは何だおっちゃんとは」
たいそう不敬な発言に思わず目を開いた桃太郎は、その声の主の姿が見えないことに驚愕した。咄嗟に起き上がると、海の中でもがっちり掴んで離さなかった刀を構える。
「おっちゃん、そんな錆だらけの刀でどうすんの?」
「ぬぅ!?」
確かに見てみれば刀はボロボロであった。
そして意識がそれた瞬間、桃太郎の真後ろから声がした。若い女の声だった。
「ちょっとお話しようよ、おっちゃん」
「ぐぬぅ!?」
振り替えると、黒装束の女がいた。
「あたしお花っていうの。どうして忍者の里の浜に流れ着いたのおっちゃん」
桃太郎、ニンジャに会う。 鈴木怜 @Day_of_Pleasure
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