7 「チカには敵わないな」

 怜が客将に招かれて半月が経った。今日はとても空が高い。


「今日は皆でピクニックー」


 チカは気分上々で、スキップをしていた。この場所は大河国の南東にある鳴神村(なるかみむら)の少し西寄りの浅賀へ来ている。近くに川もあり、レジャースポットとして人気らしい。ピクニックの後は鳴神村なるかみむらに一泊してから護衛付の馬車で大河国に帰ることとなっている。


「こらっ!チカ、あんまりはしゃがないの。はしたないですよ。王族らしい品行をなさい。チカはお姉さんなんだから、少しは勝彦を見習いなさい」


 チカはプクーっと頬を膨らますと、可愛らしくそっぽを向いた。


「うー、だって母様。ホントに久しぶりに大河国の外に出られたし、それに最近はお勉強ばかりで遊ぶ時間がなかったし」


「貴女が立派な淑女となるために必要なことです。いずれは立派な婿の元に嫁がなければならないのですよ。貴女は姫としてのお役目を果たしなさい」


 チカは深く項垂れてションボリした。


「まあまあ、そう言ってやるな。チカも頑張ってるじゃないか。それに婿はもう決めておる」


「そうやってあなたが甘やかすから、チカがいつまで経っても学問をそっちのけで、私が目を離すと遊んでばっかりじゃない。それにあなた、チカにはまだ嫁ぐのは早いと言って、いつも縁談を断ってたと思いますが?」


 玄は何も言い返せずに悔しそうに唸っていた。あーやっぱりこの人は脳筋だ。


「ぐぬぬぬぬ」


 玄は悔しそうに怜の後ろに周り、影から顔を出すと怜を盾にしながら怜に耳打ちをする。ガキじゃあるまいし、というかホントに盟主か?


「怜、お前はワシの味方じゃろ?ほら、怜もなんとか言ってやれ!」


 このオッサンの威厳の欠片もなさに、怜は反応に困っていた。


「あなた、そんなことをして恥ずかしくはないんですか?それに怜さんは私の味方ですよね?」


 奥方の視線が痛い。ここで逆らったら負けな気がする。


「えーっと…はい、そうです」


 玄は驚愕の表情で怜をジーっと横目で見ていた。


「なぬ、裏切り者め」


 しかしまあ、見事に奥方の尻に敷かれてるよなっと内心考えるが、でも幸せそうだとも感じた。その後も続いた玄と奥方の口喧嘩を遠回しに護衛達は温かく見守っていた。


「父様、母様、いい加減にして。せっかくピクニックに来てるのに、いつまでも口喧嘩をしないで」


 玄と奥方はチカに言われて、ハッっと気付いた。


「チカ、すまん。そうだったな、せっかく家族で息抜き出来る場所に来とるのに」


「あなた、チカも勝彦もごめんなさい。久しぶりのお出かけなのにつまらない口喧嘩しちゃって」


 チカはニッコリ笑うと玄と奥方の手を握った。玄も奥方もニッコリ笑った。そして奥方は勝彦とも手を繋いだ。


「チカには敵わないな」


 怜は内心そう思った。

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