6 湯浴みで一時

 怜は城内を歩く。城を遠くから見た時より、城内はとても広い。どうしよう?正直迷った。ここは何処だろう?引き返した方が良さそうだ。


「湯殿の場所はこの辺りだと思ったんだけどな?微かに硫黄の匂いがする。もしかしてあそこかな?ビンゴ、良かった。早速入るか」


 怜は簡易な脱衣所に入る。そして、女中から受け取った着替えを棚に設置された籠に入れ、服を脱ぎ捨て、きっちりと脱いだ服を畳むと、籠に置いた。怜はガラガラっと引戸を引いて、浴室へ入った。すると、先ほどまでに感じている、硫黄の匂いが更に強くなった。


「温泉とは!また随分豪華だな。しかし、湯気で周りがよく見えない。まずは体を洗って、って!石鹸があるだと!この世界でも石鹸はあるんだな、正直助かる。この匂いはミルク石鹸だな!」


 怜はミルク石鹸で体を洗うと、懐かしい匂いを感じた。そして、体の隅々まで洗って、湯船に体を沈めた。驚いたことにお湯は柔らかく、さらりとしている。


「くぅー、染み渡るー。この温泉が特別なのか?日本の温泉とは少し違う。これが何なのかわからないが?この温泉に体を沈めた途端、力の流れのようなものを感じた」


「グーグーグー」


「誰かいるのか!?」


「グーグー、スヤスヤ」


 寝息の音を頼りに近づくと、そこには子供が湯船の中で眠っていた。とても気持ち良さそうにすやすやと。流石に風呂で眠るのは危ないと思い、少年を抱き抱え脱衣所に運ぶことにした。怜が少年に近づくと、少年は怜の首に手を回し…。


「!?」


 油断していたこともあり、怜は湯船で眠る少年にキスをされてしまった。


「グやッギ@ャラホラgラ」


 怜の頭の中はパニックになり、言葉にならない悲鳴を上げる。引き剥がそうとするが、少年は以外と力が強く、引き剥がせないまま数分が経つ。何で俺はこんな子供にキスされてるの?しかも、男だし。怜の意識がだんだんと遠のき、ちかの顔が走馬灯のようにフラッシュバックする。


「アイツのこと考えると、何かムカつくな。俺は死ぬのか?風呂でガキにキスされて死ぬとか、笑えん」


「お兄さん、お湯加減はちょうど良い?お背中流しに来たよー」


 そこに、ガラガラっと引戸を引いて、現れたのはスクール水着を着たちかだった。ちかは怜にキスをする弟を見て、怒りと混乱で引きつった。


「ななななっ、勝彦。何やってるの?離れて、早く離れて」


「むにゃむにゃ。何?何なの?お姉ちゃん、五月蠅いよ」


 怜はようやく解放され、荒く呼吸を繰り返す。


「お、お兄さん。何で勝彦とキスしてるの?私とだってまだなのに」


「そのガキに近づいたら、無理やり…」


 ちかは驚きを隠せない。


「勝彦は父様と母様以外は、寝ぼけててもキスしないのに…何で?」


「俺が知るか!そろそろ風呂から上がりたいから、あっちを向いてくれないか?」


「あ!ごめん」


 ちかは顔を赤くして、怜の体を見ないように後ろを向いた。怜は脱衣所に入ると服を着替えた。


「おお、怜。一緒に飯を食おう」


 そこに、玄が現れた。怜を飯に誘い、強引に連れて行った。それからしばらくは、勝彦をちかはライバル視して、怜を近づけないようにしていた。

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