4 少し考えさせてくれ

「で、ここはどこだ」


 ちかと別れて宿を探していた俺は、偶然通りかかった哨兵しょうへいに聴取を受けた。


「見たことのない装いだな、どこから来たんだ?」


「…」


「怪しい奴。ちょっとこっちに来い」


 答えられなかった俺は、哨兵に囲まれて捕まった。荷物を調べられ、お金を持っていないことが更に疑惑を強め、敵国の乱波らっぱなのではと話が進んでいた。牢獄に入れられた俺は視界を奪われ、体の自由もきかない。仕方ないので眠ることにした。


「ぐーぐーぐー」


「おい、起きろ。起きろって。この状況で起きないとは豪胆な奴だな」


「五月蝿いなー。せっかく、犬に囲まれた幸せな夢を見ていたのに」


「貴様、ご無礼であるぞ」


「よい、こんな活きのよい若者も久しぶりだ。少し話をしよう、目隠しを取ってやれ」


「承知」


 怜は視覚を取り戻し、周りを確認する。体は縄で縛られ動けない。それにしても、大層豪華な部屋だ。となるとここは城の内部で、奥にいるオッサンが盟主か?


「そちの名はなんと申す?」


 遠くからでもわかる、このオッサン筋肉ヤベー。このオッサン相手に近接戦闘したくねーな。


「名前か…俺の名前は金井怜だ」


「怜か。そちはワシの見立てでは他国の乱波ではない。しかし、どこから来たのかさっぱりわからぬ?教えてはくれんか?」


 怜はごまかすのを諦め、これまでの経緯を掻い摘んで話した。


「なるほどな、鉄と石の国から来たとな?にわかには信じがたいが!しかし、お主は嘘をついておらん。ワシは眼力には自信があるんじゃ。お主が嘘をついたら、ワシはすぐに首を落とすつもりでおった。面白か話を聞かせてくれた礼に名を名乗ろう。ワシは大河国盟主、げんじゃ」


 茅ケ?どこかで、その名を聞いたような?怜は頭を捻る。玄は繁繁しげしげと怜を眺める。そして、怜は一瞬で空気が変わったことを感じた。玄の威圧感、盟主であるのは伊達ではないようだ。


「お主に最後の質問じゃ。お主は竜か?狸か?」


「俺は君主の器ではないし、化かすつもりもない。俺は鷹だ。遠くから狙いを定め狩る、それだけだ」


 玄は腹を抱えて笑った。


「面白い、気に入った。お主、ワシの直属の部下にならんか?お主、泊まるところも、金銭もないであろう。気に入らなければ客将かくしょうでも構わんぞ」


「少し考えさせてくれ」


「わかった、今晩は客室に泊まると良い。部屋は女中に案内させよう。縄を解いてやれ」


「承知」


 優男に縄をほどかれ、怜はようやく体の自由を取り戻す。怜は玄に頭を下げた。それにしても、部屋の外が何やら騒がしい。ドタバタとする音が近づいてくる。襖の前で音が止まると、襖が勢いよく開かれる。


「あっ」


 声がハモった。

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