42 お家でかき氷しちゃう♪

「ねえねえ、二人とも。かき氷やらない?」


 クーラーの効いた部屋で僕と真由美ちゃんが夏休みの宿題をしていた時、灯里さんが言った。


「おー、良いねぇ。けど、かき氷をやるって……」


「せっかくだから、自分たちで作ろう? ほら、自由研究にもなるでしょ?」


「それは分からないけど」


「私もかき氷を食べたいな」


「よーし、じゃあ早速やろう~!」


 灯里さんは意気揚々として、台所にかき氷機をセッティングした。


「いつの間に……」


「えへへ、ネットで買ったの。ポチっとな♡」


「まあ、良いけど」


「ほらほら~、シロップもあるよ~」


「準備が良いな~。ちなみに、大学生って夏休みの宿題とかないの?」


「うふふ♡」


「うふふ、じゃないよ。真由美ちゃん、どう思う?」


「お姉ちゃんだから、仕方ないよ」


「や~ん! 二人に呆れられちゃった~ん!」


 そんな風にテンションハイでやかましい灯里さんに辟易としつつ、僕たちはお家でかき氷を作ることにした。


「よーし、ここは男の子の出番だ。翔ちゃん、回せ~!」


「はいはい」


 僕はゴリゴリ、とハンドルを回す。


「おー、出てる、出てる~!」


「翔太くん、がんばって」


「ありがとう」


 僕は更にゴリゴリと回して行き……


「こんなもんでどうかな?」


 器には白い山ができていた。


「良いね~。じゃあ、まずは真由美にあげるね」


「え、良いの?」


「ほらほら、遠慮しないで。真由美はイチゴ味で良い?」


「うん」


「それ~!」


 灯里さんはイチゴのシロップをかける。


「はい、お待ちどおさん」


「わーい。じゃあ、お先に。いただきます」


 真由美ちゃんはパクッと食べる。


「ん~!」


「頭キーンってなった?」


「な、なった……でも、美味しい」


「良かった、良かった」


「灯里さん、次のかき氷、出来たよ」


 俺はまた白い山が出来た器を渡して言う。


「お、仕事が早いね~。じゃあ、これは頑張ってくれた翔ちゃんの分にしよう」


「え、灯里さんは良いの? 言い出しっぺなのに」


「良いの、良いの。ここはお姉さんに甘えなさい」


「珍しいこともあるなぁ。じゃあ、僕はメロン味で……」


「はーい! 翔ちゃんは練乳をご所望ですね~!」


「えっ?」


 ポカンとする僕の前で、灯里さんは練乳を手に持った。


 そして、なぜか自分の胸に押し当てながら……


 ピュルルル、と練乳を出した。


「ほらほら、灯里さんのミルクだよ~♡」


 僕と真由美ちゃんはひどくあんぐりとした。


「……わ、分かっていたことだけど……あんたはバカか!?」


「え、何が? 灯里さんのミルク欲しくないの?」


「その言い方もやめろ!」


「ぴゅっぴゅっぴゅ~♡」


「やめろおおおおおおおおおぉ!」


「んっ……ぜんぶ出た♡」


「……って、おい。チューブ丸ごとぜんぶ入れてんじゃねえか! 僕を糖尿病で殺す気か!?」


「え、翔ちゃん……あたしのミルク嫌なの?」


「灯里さんが用意した練乳な! いや、適量ならぜひともいただきたいけど! これは死ぬ! 甘くて確実に死ぬから!」


「だって、いつもあたし達だって甘々でしょ?」


「いや、まあね……って、それとこれとは違うから!」


「ほらほら、男ならつべこべ言わないで食べてよ!」


「いらないから!」


「食べて!」


「いらない!」


「ちょ、ちょっと、二人とも落ち着いて!」


 そんな風に3人でモミクチャしたもんだから……


 バシャッ、と器をひっくり返す。


「「「あっ……!」」」


 そして、僕らは練乳まみれのかき氷まみれになった。


 ドロッ、と頭から練乳が垂れ、ポタポタと雫が滴る。


 僕の目の前にいる姉妹も同様だった。


「うふふ、灯里さんのミルクでみんなを汚しちゃったぜ♡」


「だから、その言い方はやめろ」


「あーあ、翔ちゃんが変な意地を張ったせいで」


「はぁ?」


「本当は欲しかったくせに。あたしのミ・ル・ク♡」


「ねえ、真由美ちゃん。ちょっとこのお姉さんの首を絞めても良い?」


「しょ、翔太くん、落ち着いて」


「え~ん! 翔ちゃんがいじめるよ~!」


「いや、むしろ僕の方がいじめられたって言うか、精神的ダメージが大だよ!?」


「ひっく、ひっく……」


「ちょっと、灯里さん。泣かないでよ」


「……じゃあ、あたしの言うこと聞いてくれる?」


「な、何かな?」


「あたしのことを綺麗にして」


「ああ、分かったよ。じゃあ、布巾を持って来て……」


「ううん、違うの。翔ちゃんがナメナメして」


「…………はい?」


「翔ちゃんが舐めてきれいにして。ついでに真由美も」


「つ、ついでって、何かムカツクなぁ」


 真由美ちゃんがぷくっと頬を膨らませる。


「いやいや、それはマズいから」


「何よ、いつもあたし達のことを舐めまくっているでしょ!」


「だから、大きい声で言うなって!」


「確かに、あたしのエッチな声は大きいけど……きゃっ♡」


「このお姉さんマジでアホじゃないか……」


 僕はがっくりと肩を落とす。


 チラ、と真由美ちゃんと目が合う。


 ドキドキ、と。


 真由美ちゃんの目からもそんな効果音が伝わって来る。


 マジかー、これはやらないとダメな流れかー。


「……今回だけだよ」


「え、本当に?」


「その代わり、絶対に変な声を出すなよ? 良いね?」


「それは翔ちゃん次第だよ♡」


「くっ、ムカツクなこの野郎……」


 僕はウザいお姉さん彼女にイラつきつつ、


「じゃ、じゃあ……行くよ?」


「うん、翔ちゃん……来て」


「そんな雰囲気を出さなくて良いから」


 そして……


 僕は練乳かき氷まみれの姉妹をぺろっとしたのだけど……


「「やあああああああああああああああああぁん♡♡!!」」


 結局は、そうなった。







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