2 お姉さんとアイスを食べる

 コンビニ前で拾った、なんて言い方はおこがましいけど。


 年上お姉さんの灯里さんを連れて僕はアパートに帰った。


「本当にお邪魔しても良いの?」


「ええ、どうぞ」


 僕は灯里さんを部屋に入れる。


「クンクン」


 すると、灯里さんはなぜか玄関で鼻を動かす。


「え、どうしました?」


「いや、イカ臭いかなって思って」


「なっ……」


 僕は軽く固まってしまう。


「……す、すみません。きちんと消臭をするべきでした」


「翔ちゃん、ウケる。謝ることないでしょ。ていうか、軽くカミングアウトだし」


「あっ……ごめんなさい」


「可愛いね、翔ちゃん」


 白魚のような指先に触れられて、僕は激しくドキっとした。


「あ、立ち話もなんですから、どうぞお座り下さい」


「ありがとう」


 灯里さんは微笑んでテーブル前に腰を下ろす。


 僕はテーブルにコンビニで買ったお菓子とアイスを出す。


「あ、寒くないですか?」


 灯里さんは肩がはだけた服を着ているから、少し心配になった。


「ありがとう、平気よ」


「そうですか。じゃあ、アイスをどうぞ」


「え、良いの?」


「一人で食べても味気ないですから。せっかくなので」


「ありがと」


 微笑んで、灯里さんはアイスを手に取る。


「じゃあ、このチョコアイスをもらうね」


「どうぞ」


 僕は笑顔で何気なく頷く。


 だが、直後にハッとした。


 そのアイスは棒タイプだ。


 しかも、黒い。


 それをこんな美女に食べさせる。


 これは、何かマズくないか?


「あ、灯里さん! やっぱり僕がそっちを……」


「ペロペロ」


 ズザザー!


 僕は思わずズッコケた。


 な、何て露骨な舐め方だ。


「うん、チョコアイス美味しい♡」


「ハ、ハハ……良かったです」


「翔ちゃんも一緒に食べよ?」


「あ、はい」


 僕はまだドキドキしながらソーダアイスを食べる。


 灯里さんのと同じように棒タイプだ。


「ふふふ、翔ちゃんって何か弟みたいで可愛い」


「え、そうですか?」


「うん。あたし、妹はいるんだけどね」


「似ているんですか、灯里さんに」


「ううん、全然。フラフラしているあたしと違って、真面目な優等生だし。すごく可愛いのよ」


「へぇ~」


 須藤みたいな感じかな?


 っと、いかん。


 彼女のことを考えたら、ムラムラしてしまう。


「あの、ちょっと立ち入った話を聞いても良いですか?」


「ん?」


「灯里さんはその……何で家出をしたんですか?」


「何となく」


「な、何となく?」


「そう。お父さんに『もっと露出を抑えろ』とかお母さんに『ちゃんと料理を覚えなさい』とか妹に『セクハラしないで!』とか言われたりして、ちょっとションボリん子なの」


「……あの、正直に言っても良いですか?」


「うん、良いよ」


「……しょうもな!」


「え~、何で何で?」


「いや、僕はてっきり、もっと深刻な理由だと思いましたよ! それがそんな下らない理由なんて……きっとご家族も心配されているでしょうから、今すぐ自分の家に帰って下さい!」


「やだ、まだアイスを食べている途中なのぉ」


「食べながら帰って下さい! 何なら、家までお送りします!」


「やだ! まだここに居るの!」


 な、何て大人げない。


 さっきまでは、どこか儚くて大人びていたのに。


 中身はタダの子供じゃないか。


「はぁ~……がっかりですよ」


「え?」


「年上のお姉さんに対するイメージがガタ落ちです。どうしてくれるんですか?」


「そ、それは大変。大丈夫、ここから挽回するから」


 灯里さんは何やら必死に考え出す。


「……あ、そうだ」


 すると、灯里さん僕の方を見てニヤリと笑う。


「な、何ですか?」


 戸惑う僕をよそに、灯里さんは手に持つチョコアイスを見つめた。


 そして、舌先でちろりと舐める。


 段々と、深く咥えて上下させていた。


 ジュパジュパ、と嫌らしい音が鳴る。


「……あの、灯里さん?」


「ほうひはの(どうしたの?)」


「やっぱりバカなんですか?」


 ジュポッ。


「……とか言って、本当は興奮しているくせに」


 小悪魔な笑みを向けられて、


「なっ、そんなことは……」


「どうする? トイレに行っちゃう? あたしは耳栓をしておくから問題なしよ」


「いや、大アリですから」


「ふぅ~、何か手で持つの疲れたなぁ~……あ、そうだ。おっぱいに挟んじゃお」


 そう言われて気が付くけど。


 灯里さん、中々に立派なおっぱいを持っていらっしゃる。


 ちょい露出度が高い服の胸元から、深そうな谷間が覗いている。


 そこにアイスの棒を刺そうとしたので、全力で止めた。


「あんたはバカか!?」


「しーっ、翔ちゃん。お隣さんにご迷惑だよ?」


「ぐっ……すみません」


「あまりうるさいとそのお口……キスで塞ぐぞ? バキュン☆」


「ウ、ウザ……可愛いけど」


「そう、ウザいのがあたしのウリです……って、何でよ! あ、でも可愛いって言ってくれたね!」


「灯里さんこそ声が大きいですよ!」


「確かに、アレの時の声は大きいってよく言われるけど……」


「えっ……」


 僕は思わず言葉を失ってしまう。


 灯里さんはニヤリと笑う。


「ごめんね、童貞くんには刺激が強過ぎたかな?」


「べ、別に」


「あれ、もしかして童貞じゃなかった?」


「いや、童貞ですけど……」


「彼女とか居ないの?」


「居ませんよ……好きな子なら居るけど」


「え、どんな子?」


「教えません」


「良いじゃ~ん、教えてよ~」


 むぎゅっ、と灯里さんに抱き付かれる。


 僕は生まれて初めて、至極の二つの柔らかみを味わった。


「は、離して下さい」


「あれ? もしかして、お姉さんのおっぱいにメロメロ?」


「ち、違うし。こんなビッチのおっぱいになんて興味ないし」


「ふ~ん? そんなこと言うんだぁ?」


 灯里さんが不敵に微笑む。


「な、何ですか?」


「年上のお姉さんを敬わない悪い子は……お仕置きしちゃうよ?」


 その後にことは、詳細を語りたくない。


 ただ、言えることは。


 目上の人は敬いましょう。


「……ぷしゅうぅ」


「うふふ、チェリーな弟が出来ちゃった♡」


 僕はとんでもないお姉さんを拾ってしまったのかもしれない。







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