第二十八話 ダンジョン探索①


次の日、少しやつれ気味なスプラと俺ら二人、そしてどこか嬉しそうな女子二人組がダンジョン入り口の広場で集まっていた。


一昨日の約束通り、食堂で集まって今日の作戦を練ったのだ。


内容は大まかに二つ。

全力攻勢である『ガンガン行こうぜ!』と普段の行動方針の『命を大事に』である。


だいたいわかると思うが、この名前を考えたのは某ゲームを極めたグレイである。

変な名前になるよりかはわかりやすいが、わかりやすさと引き換えに色々とどこかに引っ掛かりそうな名前だ。

簡単に言うと、慎重にいくか、緊急時に備えた退却前提の攻撃かである。



前回自分たちが行った階層だが体感からしてこのまま五層に行っても最悪死にはしないと予測した自分達は、受付にて五層まで転移させてもらうため、

入り口近くにあった魔法陣の許可を取りに行った。


そこでもらった許可証を魔法陣前に立っていた護送の人に渡し、起動してもらう。


「さて、さっきの作戦通りに行くぞ。俺とグレイが前衛、スプラが中衛でセルナさんが遊撃兼偵察。ハウネさんが後衛で遠距離からの援護です、連携がうまく取れるかまだわかりませんが、今日はよろしくお願いします」


「わかった。よろしくね。二人とも準備はいい?」


「は、はい!私はいつでも」


「うん、スーができてるなら私もいけるよ、今日はよろしくね」


スプラの言葉にセルナ、ハウネが頷く。ハウネはスプラの背中に隠れながら、セルナはその吊り目を柔らかくしながら言った。

そして全員が魔法陣に乗ったことを確認し、冒険者一行は五層入り口へと転移した。


五層の環境フィールドはジャングルを基調にした、所々が自然に侵食されている石材で作られたトラップ型のダンジョンだ。


「セルナ、足元に矢が飛んでくるトラップがあるから壁を蹴って!」


探査魔法を常時発動させたハウネが、前方を静かに走りながら安全を確認するセルナの足元に隠された罠を発見し定期的に仕組まれたそれを、セルナが腰に仕込んでおいた水色に光る発光茸はっこうだけでマーキングする。

そして罠を超えた先にある通路を塞ぐ大木を通り過ぎ、左に曲がる通路を覗き込んだ。


「ありがとハウネ。それと皆。前方にホブゴブリンが数体いるから曲がるときに奇襲を受けないように気をつけて」


「了解!グレイ行くぞ!」


「おう!」


連携が取ることができる距離を保ちながら急足で向かう二人。


「3...2...1...行くぞ!」


スプラとハウネが援護に入ることができる距離に入ったことを確認し、腰につけた日本刀を右手にホブゴブリンがこちら側から視線を外した瞬間を狙って角を飛び出した。


「...戦闘フェーズに入ります。ミレイとグレイは未発見状態で戦闘状態に移行したので『奇襲』の特別ダメージボーナスを付与するかのダイス判定を行います。

判定に『隠密』を使用。初期値...20以下成功...50...39...失敗」


飛び出した勢いを使って日本刀を前に突き出し、腕に突き刺す。


「ぶおおおおお!」


痛みからかとても苦しそうな呻き声をあげるが、刺さっていない方の腕で俺の体ごと刀を引き抜いてそのまま突進してきた。


「ミレイ!」


突き飛ばされた防御が取れない俺に向かってくる二メートル近いホブゴブリンに、バックアップとして後ろからついてきたグレイが『サグロナク』徹甲金剛拳で頭上を守りながら突進する。


「突進同士のSTRストレングス対抗を行います。ホブゴブリンのSTR値19、グレイのSTR値17

...ミレイを庇う動作を確認。グレイの贈与ギフト最後の守護神プロテクトオブコンパニオンが発動。瞬発力、防御力、大補正。防御力上昇につき体格差補正確率。50以下で成功...06...成功」


「オラァ!」


二人が衝突し「ドゴッ!」という鈍い音がなった後、反対方向に滑っていく。ホブゴブリンは足で滑ったが、グレイはその衝撃を最後まで受け止めることができず、体制を崩した。


「......ボオォォォォォアア!」


「ミレイ!グレイ!大丈夫か!?セルナ、俺はなんとかさっきのを足止める!ハウネと一緒に時間を二人が立て直す数秒間だけ稼いでくれ」


「わかった!ハウネ、いつもの援護魔法お願いね!」


「はい!天土地を支配する理よ、かの者を縛る鎖を解き放ち、あまねく空を統べる翼とならん!『アルトウィンド』!」


吹き飛ばされたホブゴブリンの残りが片手に巨木を削って作ったと思われる棍棒を持って、一気に襲いかかってくる。


そこにハウネから加速魔法を受けたセルナが姿勢を低くし、巨体から繰り出される打撃を交わしつつレイピアで壁を使いながら切り傷を増やしていく。

しかしその成果は芳しくない。


「チッ!こいつら硬すぎる!気をつけて、特異体とくいたいの可能性があるから!」


一般的なホブゴブリンは肥え太った肉体を持つ、直接攻撃を喰らわない限り被害は少ない魔物なのだ。しかしその中で稀に、見た目がほぼ同じの、肉体が頑丈に育ち動きが素早い個体の『特異体』と呼ばれる魔物が発生する数少ない種族でもあるのだ。落とす素材の品質が向上しそれに比例し難易度が跳ね上がる危険も持ち合わせている。


「了解。ハウネ、遠距離魔法解禁、隙を狙って頭を狙って!」


「みんな気をつけてね!ロックガン!」


近距離担当だけで魔物を倒す火力と時間が足りない時のために、支援要員のハウネも攻撃魔法に転じる作戦。『ガンガン行こうぜ!』を発令し、チーム全体の間隔を少なめに、すぐに他の誰かを庇える近さによりながら徐々にダメージを与えていく。


迷宮内に落ちてある石をホブゴブリンに向けて順次発射し、その射線に入らないよう通路の端から波状攻撃の様に襲いかかり、三体目が倒れると状況を悪く感じ取ったのか、魔物は奥へと逃げていった。


耳をすまし足音がしないかを確認した後、腰を下ろした。


「お疲れー、怪我はない?」


「おう。お前もないようだな、三人さんはどうよ」


「私は大丈夫。ハウネは少し息切れしてるけど、魔力を短時間で大量消費すると出る症状だからあまり気にしなくていいよ。それにしても君たち強いね。冒険者歴は浅いってスーが言ってたけど、身のこなしが熟練冒険者みたい」


水色の髪を上下に揺らし、目をキラキラさせてずいずいと近寄りながら、そう捲し立てるセルナ。

普段の彼女の姿から想像できない話し方に少し戸惑いながら残りの二人の姿を見ると、ハウネの肩を支えながらスプラッタが苦笑いしている。


「はは、ごめんね。セルナって寡黙そうに見えて意外と好奇心旺盛で、実際は俺たちより活発なんだよ」


そのスプラッタの言葉に頬を膨らませて自分の元から離れてスプラの胸をぽかぽかと叩きそれを、ハウネが諫めていた。


「なあ、修哉」


「おう、健斗言いたいことはわかるぞ」


修也の隣でそう話しかけると、あいつも分かっていると言わんばかりに肯首していた。


「「リア充爆発しろ」」


そう向こう側でイチャイチャしている三人を見て、そう心で零す。


「まあ、二次元をそのまま世界に持ってきたような見た目だとあまりイラつかないんだなって言ったすぐに思ったわ」


「同感、これはこれでなぜか尊いよな」


その後、自分たちのところに来た三人とダンジョン探索を再開するが特に目立った出来事が起こることもなく、ボス部屋を見つけた後。入り口からその場所に続く道にマークをつけながらダンジョンを抜け、日を跨いだ。


——————


お待たせいたしました、やっとダンジョン探索です。

物語が僕の中で迷走し始めましたので軌道修正しながら執筆していきます。

他作品も書いていますので、次話は半月後くらいかも。


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