第6話


「古今東西……、なにしているんだ」


「いや……、別に……」


 筋トレ。筋トレかぁ……。

 随分と人間味溢れるというか、一切合切不思議要素の絡まない言葉が飛び出てきたものだ。


「いいか? 古今東西、人間の悩みなんてものは大抵が筋肉で解決出来ると相場が決まっている」


「そうかなァ」


 頭が良くないと解決出来ないことも多いと思うんだけど。例えば言葉の壁とか。


「そもそも、人間が一人で解決出来ることなんてたかが知れているんだ。大事なのは他人とどれだけ協力できるかにある」


「それは、まぁ」


 分かる気はする。

 二年ほど社会人として働いてみて、自分の実力の無さは嫌というほど実感している身としては。


「大切なのは誰かに助けを求める力と、誰かの助けになれる力だ。つまりは! 自信!!」


「自信……」


「こんなこと頼んで良いのかな……、こんなこを言っていいのかな……、これは自分でやらないと駄目なのかな……、これを言ったら怒られるかな……。そういった後ろめたい気持ちを持って行動してて碌な結果が付いてくるはずがねえ」


 少しだけど、耳が痛くなってきた。

 確かに俺は自分一人で抱え込むことが多い気がする。それは別に自分が自分がやったほうが早いから、とかなことではなくて誰かにお願いするのが、もっと言えば断られるのが怖いのだ。


 だからかもしれない、仕事を任せた後輩にももっと積極的に状況を確認して、遅れが出そうであればその都度指示をすれば良い。それも分かっているのに怖くて話しかけられない。それで、逃げられるのだから根本として俺のやり方が下手くそなのかもしれない。


「でもさ。それと筋トレに何が関係するんだ?」


「ネガティブなマッチョは存在しねえじゃねえか」


「そうかぁ……?」


 何を当たり前なことを。みたいに言ってくるけれど、探せばネガティブなマッチョも存在していると思うんだが。確かにマッチョな人って明るいというか、元気いっぱいなイメージはあるけれど。


「ほら、まただ」


「え?」


「また否定から入った。いいか? 自分の話を否定されて喜ぶ人間なんて少数なんだ。とりあえず否定するってのも悪い癖だぞ」


「うっ」


「勿論慎重と捉えることも出来るけどな。それはしっかり背中を押してくれる時は押してくれると信頼しあった間柄でこそ発揮する美点であって、基本ネガティブな奴に相談したいと思うか?」


 ぐうの音も出ない。

 上司を怒られせる要因の一つがまさにそれなのだ。ですが、から入ったせいで内容を言う前にぶち切れられることなんてよくあることだ。そのせいで仕事の確認が出来ずに余計なミスが増えてまた怒られる。


「もう一度言うが、慎重という美点でもあるんだ。だからこそ、お前の癖を悪癖から美点に変えていこうじゃねえか!!」


「おっさん……」


「さっそく今日からいこうか! まずは重さを使ったトレーニングだ!」


「四本目に行こうとするな」


「ちッ」


 しれっと新しい缶ビールを取り出したおっさんから奪い去り、冷蔵庫へ戻したときにはふて腐れたおっさんはおっさん用の布団(ハンカチを縫って作った)に潜り込んでいた。

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