社畜の俺が全裸のおっさんを拾う。
@chauchau
第1話
もう二年と考えるべきか、まだ二年と考えるべきか。
議論を交わす気もなく、ただ事実として聞き慣れてしまった駅名に俺は重い腰を持ち上げた。
二人分離れた場所に座るサラリーマンも、向かいに座る若者も立ち上がった俺を意識することはない。前者は疲れ果て、後者は酔い潰れて寝てしまっているから。
すでに時刻は天辺を越えて、今日は昨日へと変わり果てている。珍しいことじゃない、俺にとっては日常であり、今日である明日も、そしてその次の日も続くことなのだから。
人格否定までされる就活戦争をなんとか生き抜いたと思えば、入った会社がブラックでした。
なんてのは今ではどこにでも転がっている話であり、大した不幸でもなんでもない。残業時間の半分以上がサービスとして消滅していることに目を瞑れば残業代だって支払われているだけ俺はマシなのだろう。
ずっと見続けていたスマフォをしまい込み、代わりに定期券入れを取り出す。大学祝いに親戚のおばちゃんからもらったちょっと高価な革製。
肌触りが心地良く、ちょっと大人になった感覚も合わさって大事に大事に手入れを繰り返しながら使い続けたそれは、今では刻まれた傷も一部としてよりお気に入りとなっている。
改札を通り過ぎる。
覇気の無い駅員から形だけの挨拶を受けて、階段を降りていく。田舎ではないが、都会ではまったくない我が町は、駅前だというのにすっかり光が落ちきってしまっている。
灯る明かりはコンビニと一部のファーストフード店のみであり、そこも人気を感じることはない。
意識せずとも足が動く。
車なんて滅多に走っていない。心ここにあらずとも事故に遭うこともない。
頭に浮かぶのはさっきまで読んでいたウェブ小説の内容。
冴えないサラリーマンだったり、男子高校生だったりが綺麗な女性を拾う話。女性と一言でいっても若かったり、年上だったり。無職だったり、実はご令嬢だったりと様々だ。
かなり前に有名な小説家が逆パターンの話を書いていたと思う。あれは、女性が男性を拾う話だったか。当時中学生くらいだった俺もすいすいと読めた内容だったはず。
異世界に行きたいとは思わない。
どれだけチートをもらおうが、痛い目に会いたいはずがないのだ。怖い物は怖い。昔から俺は臆病だ。
だからこそ、憧れるんだ。空から女の子が! 的なシチュエーションに。日常を壊しきることはなく、だけども大切な何かだけを温かく壊してくれるそんな出会いに。
何を馬鹿なことと笑うだろう。
少し前の俺なら笑っていたはずだ。いや、実際に笑っていた。
そんなことが起こるはずがないと。
彼女が欲しければ合コンでもなんでも動かないと意味がないということを。
仕事で忙しいことを理由に。別に休みにはゲームで充実していると言い訳に。結婚していく同期に羨ましいと言うだけの卑怯さに。
築60年の風情溢れるボロアパート。
一切誰にも誇れない俺の城。俺だけのものではない城。そもそも俺のものではない城。
それでも、一室だけは。
俺が借りている部屋だけは、俺だけの城だった。
そう。
だった。
今は違う。
起こったんだ。
ありえないことが起こったんだ。
この世界にも神は居る。
願い続ければ夢はきっと叶うんだ。
もっとも。
「ただいま」
「おう、おかえり」
この世界に居る神は、神は神でも。
「……服着ろよ」
「フルチンこそがワシのユニフォーム」
「おっさん……」
邪神に違いない。
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