私は目覚め、窓を開けた

藤枝伊織

 掴んだ砂が指の間から零れるように、さらさらと落ちていく日々が流れていく。落ちていったそれらに意味はない。それでも私は意味を求めて、未練がましくまたかき集める。


 やっぱり、連絡はなかった。まだ、涙が出そうになる。毎日連絡をしないと大翔ひろとの頭の中から私の存在は消えてしまいそうで、私は毎日彼にメッセージを入れた。


山城やましろ、大丈夫?」


 私を気遣う男の声で我にかえる。まさか、会社を入社して半年たってからやっと行われた私たちの入社祝いの飲みの席でこんなに飲むことになるとは思わなかったし、たまたま開いたスマホに彼のSNSが投稿された通知が来るとは思わなかった。SNSは開くのに、私のメッセージに返信しない大翔を、私はなぜ待っているのだろう。

「わかんない。とりあえず、もう少し酔いたい」

 私は思ったよりもしっかりと回る舌で答えた。男は波多はたと言った。私の唯一の同期だけれども、大学を留年しているから一つ年上なのだと言っていた。

「じゃあ、二人で飲み直そうか」

 先輩たちと駅で別れたあと、波多は私の耳元でそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る