メンタルクソ雑魚な俺が、転生ギフトに『精神力』もらったら世界最強!?

360words (あいだ れい)

第0話 クソ雑魚メンタル異世界転生-上

 俺は今、絶望に暮れている。

「嘘、だろ……」

 俺の腕の中には、1羽の動かぬ、ニワトリがいた。

「ぴぃちゃぁあああああん!」


 ぴぃちゃん。

 それは俺のすべてだった。

 俺の唯一の友人であり、家族だった。


 小さいころからクソ雑魚メンタルの俺は、自分の意見を言えず、引っ込み思案で、どんな場所でもいじめの標的にされていた。

 弱い心のせいで、いじめにあった。

 人が怖くなって、友達もできない。

 俺は、自分の弱い心を恨んだ。

 この、弱い心のせいで、友達もできない。

 この、弱い心のせいで、いじめられる。

 俺は、小学校を休みがちになった。



 小学生5年生の時、お祭りで父親が母親に内緒で買ってくれたオスヒヨコ、それがぴぃちゃんだった。

 母親とのすったもんだがあったが、無事、ぴぃちゃんは俺たちと家族になった。


 小学校でいじめられて帰ってきても、ぴぃちゃんがいた。

 ぴぃちゃんをブラッシングしている時間が1番の幸せだった。

 やがて、俺は中学生になり、ぴぃちゃんはヒヨコからニワトリになった。

 少し遠いが小学校の奴らとは別の中学に入った。

 俺の人生は、ぴぃちゃんによって、うまく回り始めた。

 しかし。


 その直後に父親は亡くなり、母親も後を追うように亡くなってしまった。

 俺はいつの間にか、家族がぴぃちゃんだけになってしまった。

 俺の弱い心は、再び折れた。

 俺は、ぴぃちゃん以外に心を閉ざすようになった。

 そして、俺は不登校になった。

 中学2年の夏の日だった。


 そして、今日。


 彼が最後の家族だったのに。

 先立たれてしまった。

 ただ生きていただけだった、17の、夏の日だった。




 分かってはいた。


 俺は、ぴぃちゃんを庭に埋めた後、家を出た。


 分かっていたさ、寿命がもう来ていたことは。


 門を出て、右へ曲がる。


 それでも、俺の細い心を折ることは、簡単だったようだ。


 コンクリートの階段を下りてゆく。

 川の、キラキラと光る水面が、美しい。


「ごめんなさい、おとうさん。おかあさん。ぴぃちゃん」


「もし、来世があるなら……、その時は」

 折れない心で、家族とわらいたいな。


 俺は、ゆっくりと、身をその川に沈めた。

 あぁ、涼しくて、気持ちがいい。

 川底から見る、太陽は、砕かれた宝石のようで。


 俺の意識は、段々と遠のいて、きえた。




「っはっ……!」

 俺は、目を覚ました。


「え……? なんで、俺死んだんじゃないの、か……?」

 そう、俺は先ほど入水自殺した、はずだった。

 困惑のあまり、辺りを見渡す。


 そこは、無、だった。

 何も感じない。

 色も、光も認識できない。

 だが、自分の姿は見えた。

 裸だったが。


 しばらく辺りを見回していると、目の前に突然人が現れる。

「うわぁっ!」

「はい、どうも! 神です!」

 そこに現れたのは、10代の少女だった。

「何て? というか、女の子……?」

 今ありえないことを聞いた気がする。

「いやだから、私は神です! はい拍手!」

 ニコニコ笑顔で、1人で拍手をする少女。

 えっと、どう反応すりゃいいんだろうか。

 俺が戸惑っていると、自称神の少女は真顔になって言った。

「なんだ少年、ノリ悪くね? ま、どうでもいいけど~」

 その少女は中にぷかぷかと浮きながら、何もないところから石板のようなものを取り出した。


「えー、ではまずお役所の規定に則って手続きを……」

「え、いやいや。ちょっと待って!」

「なに? ちぃっとばかし急いでんだけど」

「え、なにこの状況! 全然理解できなんだけど」

「あー、わかったわかった。ちょっと待って。後で説明すっから」

 そう言うと、少女はぶつぶつと聞き取れないような言葉を呟き、右手の指先にキスをした。

 そしてその指で俺のおでこを、トン、とつついた。

「よし、死後処理終わり! おっけ、これで君はしばらく消滅しないや」

「え、何それ消滅って。っていうか、死後処理って――」

「あーあー、一気に質問すんな! 消滅はそのまま。跡形もなく消えちゃうの。そして、君は君自身の手でちゃんと亡くなってる。つまり、自殺。ここは死後の世界で、今の君は魂。死後処理しないと、ルール違反になって、時間経過で君の魂は消滅してくの、ここまでOK?」

「お、OK……」

 驚きの事を当たり前のように語る少女。

 俺はあっけにとられ、うなずくだけになってしまう。


「んで、ここから。今回君は君自身のクソ雑魚メンタルによって、自殺という逃げを選択してしまった。それは神の世界では罪にされてる、というか私が神だから決めたんだが」

「……はい」

 そのことを聞いて、俺は自分で理解できたような気がした。

 確かに俺は、ぴぃちゃんが死んでしまって、耐えきれなくて、自殺した。

 だから、おそらくだが、ここは本当に死後の世界なのだろう。

 目の前にいるのも、本物の神様だ。




「ここで少し話は変わるんだが、今、神はリソース不足でね。魂の新造ができない。だから、今出回ってる魂はほとんどがリサイクルなんだ。君たち風に言えば輪廻転生。それでも、1000回ほど使うと、傷が付きすぎて大体は自動的に消滅しちゃうんだ」

「そうなんですか」


「そして、最近、新たに分かったことがある。それは」

「……それは?」

「魂のリサイクル回数が少ないほど一生の幸福度(神基準)が高い説~!」

 どんどんぱふぱふ~、と言わんばかりの神さま。

 俺は彼女に冷ややかな目線を送った。

「……」

 なんだか、俺にはこの神がふざけてるようにしか見えない。

「あぁ、ごめんて。ここからは真面目な話だ」


 神は、真剣な目をして、俺に問いを投げかけた。

「この話を聞いて、君。自分が死ぬの何回目だと思う?」




 ―第0話 クソ雑魚メンタル異世界転生-下に続く―

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