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「それで、お前は何を聞きたいのだ?」
「その巻子の事柄についての貴方様のご意見をお聞かせいただきたい」
「私の意見を?」
「いけませんか? 貴方様ほどの方と語り合える機会など私にはめったにない事。どうしても、尊敬する貴方様の意見をお聞きしたいのです。私が一人で考え、未だ誰にもこの思考を話したこともない。初めて貴方様に見ていただくのだが、見ていただき、意見を聞くことで、私には考えもつかない、または、私が見落としている何かが見つかるかもしれないと私は思っているのです」
「なるほど。はじめてか……」
師は老人の言葉に薄い笑みを浮かべて頷き、顎に手を当て少し考え込んでから言葉を吐き出す。
「ふむ。意見を聞きたいというお前の気持ちはわかるが、先ほど渡され、一読しただけで考えを述べよというのは少々乱暴ではないか?」
「そうでしょうか。貴方様ほどの人、見ればその内容をすぐに読み解いてくれると思ったのですが」
「幾ら私でも、神様ではない。一瞬見ただけで人の思考を読み取れるわけもない。そうだな、私も少々忙しい身だ。どうだろう、しばらくこの巻子を預からせてもらって後日、話し合うというのは」
「そうですか、うん、そうですね。突然結論を言えと言われてもそう出るものでもない。すみません、どうしても貴方様の意見が早く聞きたくて焦ってしまったようです。貴方様のおっしゃる通り、少々乱暴だった。では、巻子は置いて行きますので、結論が出たら使いをよこして貰えるでしょうか?」
「あぁ、もちろんそのつもりだ。必ずそうしよう」
にっこりと微笑んでいう師の言葉に老人もまた笑顔で答えたが、その二人の笑顔に含みがあったことを老人は解っていたが、師が気づくことは無かった。
日も落ち、一人、また一人と酒宴の客がやってくるのと入れ違いに、師の家を出た老人は一人、口の端を引き上げて笑う。
「さて、貴方はどうするでしょうね」
いかにも楽しげにそう呟いた老人は足を引きずり、他の人の倍の時間をかけて巻子が山積みされている自分の部屋に戻ってきた。
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