第34話
ネット小説に代表される現象、クラス召喚に巻き込まれた秀名学園二年B組。
そのうちの一人、冷泉刹華こと俺はスキルが発動しなかったため初日に城より放り出され、森の中でレーネというフェネク族……美しく小さなキツネ獣人の女の子に出会う。
瀕死だった彼女を助けたいと強く願ったら、頭の中に声が聞こえた。
■――運命を『殺し』ますか?
『殺す』スキル。
この力はただ相手を殺すだけじゃない。色々な物質の繋がりを『殺し』て破壊したり、条件が合えば『殺し』たことを『殺し』て再生することもできる。
聖女に化けていたアリエルが戦力を作るためにチートスキルをクラスメイトたちに配っていたのだが。
俺のスキルはどうやらオリジナルで、聖女の祝福は関係ないらしい。
俺には元々、とんでもない力が備わっていたみたいだな。
国と親を亡くし暗殺者に狙われていた銀髪赤眼の美少女。イシュタル王国の姫、スレイをスキルで助け。
クラスメイトのイシイに殺された封印の女神、神秘的な精霊神フローラの死を『殺し』森を復活させ。
いつの間にか幼い彼女たちと一緒に暮らすことになった。
彼女たちは今日も成長を続けている。
簡単に作れる木工細工やスライムキャンドル。りんご飴などはいまだに好評だ。
だが、俺は静かに暮らしたかったはずなんだが?
一緒に街に出ると、「何人女を増やす気なんだひとり分けろ!」とか「うらやましいんだよ見せつけるな!」とか言われる。
余計なお世話だ。
やれやれ、レーネ、スレイ、フローラ。お前たちが美しすぎるのも罪ってことだよな。
彼女たちが売り子をすると、瞬く間に商品は売れてしまう。
「ちょっとちょっとセツカ。私は? 私とのエピソードは?」
はぁ。ミリアという冒険者もいる。以上。
そんなこんなでやっかいなイシイたちと聖女アリエル。いや、魔女アリエルと呼ぶべき存在を倒し、オリエンテールの抱える面倒ごとは解消された。
さっきから俺の周りをうろちょろとするミリアはS級のアホ女だ。
「私はS級の冒険者! 剣鬼のミリアなんだから! セツカの大事なパートナーよ」
はいはい。
こいつが王女の資格を持っているらしいので、めでたしめでたしで俺は森へと戻れるはずだった。
そうして女の子たちと静かに暮らせるはずだったのだが……。
「こんなものか?」
「ありがとうございます。国の歴史に残す資料にまとめなければいけないので、セツカ様のご協力感謝します」
「はぁ。間違いなく黒歴史確定だ」
「なんとおっしゃいましたか? セツカ様の功績はオリエンテールで未来永劫語り継がれることでしょう!!」
へらへらと笑う歴史家とやらに促され、身の上話をすることになった。
めちゃめちゃ単純に語ったのだが、設定盛り盛りにされて書かれるんだろうな。
ああ、憂鬱だ。
そして大臣が俺に対し深く頭を下げる。
「セツカ様が国王になられてから、経済が軒並み改善しております。国民は税金が安くなったことに喜び、また手厚い公共事業に感謝の声がやみません。すごすぎです!! すべてはセツカ王のお陰です!!」
「そうか」
なんと俺は国王の代理として国政に携わることになった。
おかしいだろ。俺は普通の高校生だぞ?
「これほどの政治知識と実行力……まさかセツカ様は転移元では一国の主だったのですか?」
「一般人だ」
「ご謙遜を……さすがはセツカ国王だ!!」
大臣どもは感心し。はぁ、セツカ国王天才すぎるとため息をついて尊敬の眼差しを向ける。
頬づえをついている俺は態度が悪いが、それすら王の風格があると褒められる。
お前らいいかげんにしろ。
いや、俺が政治できるのは『殺す』スキルを使って問題解決したから当たり前なんだがな。
政治知識とか以前にあらゆる問題をチート解決したので。
王城にこもりっきりで内政に励んだ俺は、この国の問題点をしらみつぶしにしていった。
以前考えていた奴隷制を実質廃止にする案を実行に移し、作物の生産効率を向上させ種もみを改良し兵士の質をあげ最低賃金という制度を導入し呪いでボロボロになった城の補修をして通商のため税体型を改訂し赤ちゃんポストを設置した。
つかれた。
人に注目されることにつかれた。
俺は静かに暮らしたいのだ。
だというのに、本来の王族であるはずのミリアは。
「セツカってば、すっかり国王が板についてきたわね? 私なんか最近やっと割り算について理解したわ。政治って難しくて興味もてない。よくセツカは政治なんてできるわね? このまま私の代わりに国王になってくれても構わないわよ? そしたら私はお妃様ね!」
などと頬を染め言ってくるため。
「だまれ馬鹿」
と言って泣かせてやったりもした。
すべては学問に対する意欲皆無なお前が悪い。馬鹿ミリア。
すこしは勉強して早く王女になるという気持ちはないのか?
「アハハハァーンまた馬鹿って言ったーっ!! 馬鹿って言うほうが馬鹿なんだからーっ」
うるさいやつである。
アホクラスメイトたちは「セツカ王!! セツカ王!!」「しゅごいセツカ王」「やっぱしゅきセツカ王」などと言うしか脳がないし。
あいつらには今、王城直属の冒険者になって働いてもらっている。
城にいるとうるさいから外に出したのである。
ダンジョンなどを攻略してレベルを上げながら、この世界について調べるとオニズカとサカモトは話していた。
がんばれ。
更にはキシとアマネもうるさい。
あの二人は、奴隷だった者に仕事を斡旋する事業を始めたみだいだ。
ミリアの母で冒険者ギルド長のペニーワイズと手を組み、ボブリス伯爵に虐げられていた奴隷たちのケアをしているみたいだな。
商売は上々らしいがたまに城にやってきて「セツカありがと。しゅき」を繰り返してきて本当にうざい。
早く帰れ。
あと、商人ギルドのサムズとはまだ繋がっていて、レーネたちが作ったキャンドルなどを売りさばいてもらっている。
あれが売れれば一定期間レーネたちが暮らしていけるレベルの収入が入るな。
だけどサムズも「セツカ様の目の付け所シャープしゅき!」してくるからうるさいやつらと同類だ。
さて、色々終えて『深淵の森』の中に佇む教会へと帰ってきた。
この建物は俺が勝手に教会と呼んでいるだけで、本当に教会だったのかはわからない。
スレイの先祖である聖女サリアナがその昔住んでいたというが。
白塗りのその建物は森の中でひっそりと建っている。静かなので気に入ってスキルで直したのだ。
扉を開けると、部屋の中から流れ出る暖炉特有の暖かな空気が頬を撫でる。
「おかえりなさいご主人様! お帰りがまちどおしかったです。えへへ!」
「セツカ様おかえりなさい! 国王のお仕事お疲れさまでした。すっごく会いたかったです!」
「待ってたですよぉ。セツカちゃんの帰りが待ち遠しくて泣きそうでしたぁ。おかえりなさいですぅ!!」
腰の部分に衝撃。
三人の女の子に突撃され、ぎゅっと抱きつかれてしまう。
どれだけ会いたかったのか、まるで押し倒そうとしているかのような勢いだったな。
頬をこすりつけてくる女の子たちが可愛いので、順番に頭を撫でた。
レーネは嬉しそうにケモ耳を揺らし、スレイが気持ち良さそうに瞳を細め、フローラは照れながらはにかんだ。
こうしてこの子たちと触れ合うと落ち着くな。
「んーっ。私もなでてなでて」
なんか真っ赤な髪の毛が俺の目の前に差し出されていた。
この教会に赤い髪色の女の子はいない。
レーネは金、スレイが銀、フローラは淡い緑だからな。
たぶん、これ、粗大ごみかな?
うーんゴミのだし忘れかなぁ。
ひょいと真っ赤な髪の毛の不法侵入者(ミリア)を抱えた俺は、玄関の扉から放り出し鍵を閉める。
そして指差し確認。
「ヨシ!」
「いやぁあぁぁん!! アハハハァーン!! 入れてください、夜ご飯一緒に食べようよぉー!!」
やれやれである。
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