第25話 聖女の思惑を×そう!③


 聖女が去ったあと、塞がれていたダンジョン出口は元に戻ったようだ。

 イシイのスキルの影響から離れたためだろう。

 俺たちは街へと戻ってきた。


「貴様がセツカだな。聖女様がお呼びだ!! 三人の子供も一緒に来いとのことだ」


 そうすると待ち構えていた兵士にこう呼び掛けられたのである。

 聖女は王城へと先に戻ったみたいだな。俺を呼び出したということは待ち受ける準備が整ったということか。

 仕方ない。王城へと向かうか。

 

「セツカ……」


「心配しなくていいミリア。大丈夫だ」


 心配そうに俺の顔をのぞきこむミリア。不安の色が見えるな。

 元々ミリアはこの件に無関係だ。こいつは置いていくか。


「嫌よ!! あたしもついていくわ。セツカを守るんだから!!」


「無理をするな。相手は聖女。お前の国のお偉い様だぞ?」


「そんなの関係ない! あなたがあんな目にあったと知って、そしてまたあの女に酷いことをされると知っていて……あたしはあなたを送り出せるほど人間できてないの!!」


「お前がもし聖女に敵対したら冒険者ギルドに迷惑がかかるんじゃないか?」


「そんなの……だって、嫌よ!!」


「ペニーワイズだって許さないだろう」


「許しますー」


 すると、背後からペニーワイズの声がしたのである。

 どうやら戻ってきた俺たちの姿を見つけて、冒険者ギルドからやって来たみたいだな。

 一体いつからいたんだあの女は?


「行ってくださいー。ミリアにはその資格がありますー」


「ありがとうお母さん!」


「しかし」


「セツカ様。ミリアは以前お話した通り、私の実の子ではありません。本当の父と母を知らない可哀想な子です。このような事態になったからにはお話しますが。前国王ハーベストと、妃ピピンの間にできた子がミリアなのです」


 は?

 おいおい、何気に爆弾発言じゃないか?

 もしペニーワイズの話が本当だとしたら、普通に考えたらミリアに王位の継承権があるってことだろ?

 だったら今の王って誰なんだ? 勝手に王を名乗っているのか?

 大スキャンダルじゃないか。


「えっ……だって、あたしは捨てられた子だって、お母さんが拾ってくれたって」


「ミリア。あなたは大きくなりました。あなたの実の両親は、今の国王ルーイーズによる策略によって亡きものにされました。今回の騒動で確信を持てました。恐らく聖女と国王が共謀したのでしょう。私はあなたを守りたかった。生まれたばかりのあなたを、ルーイーズの手から逃れるため死んだように偽装して別人として人生を歩ませたかったのです。恨んでください。私は、あなたに嘘を吹き込んで育て続けました。本当の両親を知っていたのです」


「お母さん……」


「ごめんなさいミリア。私は、母を名乗る資格がありませんね。城から脱出した兵士の亡骸が抱えた赤子のミリアを拾ったとき、あまりの可愛さに命を懸けて育てると決めました。気がついたら女だてらにギルド長なんてやってます。怪我で子供を産めない身体になったので、なおさらミリアにこだわったのでしょうね……」


 ペニーワイズは涙を流す。

 彼女が今の地位まで登りつめたのは、ミリアを育てるために努力した結果だということか。


「そんなことない! あたしのお母さんはひとりだけだし!!」


「……ミリア!?」


「お母さん!! 育ててくれてありがとう」


「ミリア……ごめんなさいね、ミリア」


 ペニーワイズに抱きついたミリア。

 まあ、この二人を見ていればわかることだが普通の親子よりも親子をしている。

 羨ましいくらいだ。

 ……って、俺は何を見せられているのだろうか?


「んで、行くのか行かないのか?」


「行くっ!! セツカを守るよ。S級冒険者の力を今こそ発揮してあげるんだから。それに、あたしの両親がどうなったのか、直接聞いてみたい」


「冒険者ギルドもすぐに動く準備ができてますー。セツカ様のためならいつでもギルドを動かせますよー?」


 やれやれである。

 さて、準備は完了だ。

 そうして俺とミリア。レーネ、スレイ、フローラは城へと向かった。

 

 城は地下に牢獄がある巨大な構造物で、周囲には堅牢な城壁、石造りの街が建ち並ぶ重厚な造りになっている。

 久しぶりというか、一回しか来ていないからほとんど何があったから忘れてしまったな。

 前よりも寂れているようには思える。


 城門を潜る際に武器のチェックを受け、丸腰にされた俺たちはそのまま豪奢な広間へと案内された。

 そこには聖女とクラスメイトたちが待ち受けていた。


「またお会い出来ましたね、セツカ様。なんでいるんですミリア様? そして可愛らしい女の子たち♡ ようこそ王城へ。久しぶりのこの場所はいかがですか? なにか思いだします? 例えば私に足蹴にされて泣き言を口走ったあの時のこととか?」


「……用件は? さっさと済ませればいいだろう?」


「まあまあ焦ることないでしょう? お会いしたかったですよセツカ様」


「俺は全く会いたくなかったがな」


 聖女。

 本当に腹が立つ女だな。

 勝ち誇った表情で微笑みを浮かべるクソ女。

 そして例のごとくクラスメイトの数が足りていない。人質のつもりなのだろう。


「へえ、そのような態度はよくありませんねえセツカ様。私とあなたでは立場が違います。すべてのカードが私のもとへと集っているのです。そして最後の仕上げがこの場所で完了するのですよ」


「仕上げか。勝手にやっていてほしい」


「いえいえ。これから貴方にはもっともっと働いてもらいます。さあ、手始めに……」


 聖女は指差した。

 その先には、レーネたち三人の女の子の姿が。


「あの子たちを差し出してください」


「なんだと!?」


「はぁ。甘く見られたものです。あなたの切り札はその三人の女の子たちですね? あなた自身の能力も恐ろしいものですが、知り合いが人質になっていればその力も発揮できないと証明されました。しかしその女の子たちは違いますね? あなたの危機に対し極度に反応する可能性が残されています。だから、彼女たちはこちらで預かります。ええ、ええ!」


 こいつっ!?

 聖女は口許を邪悪に緩ませ笑顔をみせる。

 拷問された時からあの笑いは何度も見ている。勝ち誇った顔。


「さあ、さあ、さあセツカ様。選びましょう。あなたのクラスメイトは今、首筋にナイフを突きつけられている。そしてその数は数人から十数人。イシイ様が空間を『契約更新』しているので場所はわからない。三人を差し出せば、少なくとも今は皆の命が助けられる。さあ選択ですセツカ様ぁ!!」


「くそっ」


「残念でしたねえ。もしかしてこの女の子たちに私を襲わせるつもりでした? 不意をつく予定でした? 無理ですよ無理無理。あなたにはむ・り」


 聖女は耳元でねっとりささやく。

 しゅんと耳が垂れ下がったレーネ、悔しそうに涙をためたスレイ。うなだれた様子のフローラが聖女のもとへと歩みでる。


「ご主人様、わたしはだいじょうぶですから……」

「うう、セツカ様」

「ふーちゃん残念ですぅ」


「あははははっ!! どうやったらこんなに強く育てられるんですか? 危険ですねえ。でもダメですよあなたたち。あなたたちも反抗したら大好きなセツカ様が酷い目にあうのですから、よく従うのですよ? イシイ様に」


 なんだと!?

 イシイのもとへとレーネ達を送るというのか?


「腹が立つんですよ。このガキどもは調子にのっています。私よりも若くてかわいいなんて万死です。なので、イシイ様に調教してもらいましょう。精神的、肉体的にねえ。はははっ!! 気に障るんですよちょっと見た目がいいからって悲劇のヒロインぶりやがって。では、転送。ハヤサカ様?」


「で、でも」


「早くしてください。あなたをイシイ様のところに送りますよ?」


「うぅ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 『転送』の能力を持つらしい気の弱い女子ハヤサカによってレーネとスレイ、フローラはどこかに転送された。

 恐らく、聖女の言った通りならイシイの待ち構える人質が保管された場所だろう。

 それを見届けた聖女はさも愉快そうに両手を広げ嗤う。

 

「だいじょうぶですよぉ。イシイ様だってちょっと味見をするだけですってぇ!! 乙女のはじめてをじっくりねっとり味わうだけですってえ! だから泣かないでセツカ様!! 女の子たち傷物になったからって泣かないで? あはははっ」


「……こんなことのためだけに、俺をここに呼んだのか?」


「ん、まあセツカ様を痛め付けるこれも最高に気持ちいいですが、むしろ本題はこれからなんですよ」


 そう言うと、聖女はカーテンを開く。

 隠されていた場所からは王座と、そこに座る人物がいた。

 威厳がありそうな髭を蓄えた、太った人物。

 拷問された時に聖女のとなりにいた人物か。


「オリエンテールの王、ルーイーズ様ですね」


「ははは。聖女アリエルよ良くやった。これでオリエンテールの戦力も磐石。褒めてつかわすぞ」


「うるさいぞ愚か者。お前の役目はここで終わりです」


「なっ……あ、アリエルこれは!?」


 アリエルが右手を払うと、ルーイーズの首がごろりと胴から離れた。

 そのまま地面へと落ち、血が勢い良く吹き出す。


「と、いうわけで国王ルーイーズ様は逆賊セツカによって殺害されてしまったわけですね。これは大変大変」


 そういうことか。

 俺をスケープゴートにして、聖女は国を盗るつもりだとでもいうのだろうか?


 妖しく微笑む聖女の視線がねっとり舐めるようにこちらに投げかけられていた。

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