俺とみかんとマッスルの執筆奮闘記!:ノベルの書き方編

とざきとおる

キャラクター達のプロローグ(ここだけ小説形式です)

 この日、俺は初めてその部屋に入る。


 我ながらなんでこんな選択をしてしまったのかなーと思っていたのだが、大学デビューを機に何か新しいことに挑戦しようとした挙句たどり着いたのはまさかのノベルサークルだった。


 我ながらとんでもない腑抜けだとは思ったのだが、それもまあ、仕方のないことだ。


 運動部は無理だと中学校の頃に悟った。高校は勉強に集中しようと部活には入らなかった。


 故に大学に入った今、文化系でも何か課外活動はしようじゃないかと思い立ったのは入学式当日。しかし、問題は文科系に絞っても多い。


 文化部の中でも、もはや運動部と同じ運動量を行う 音楽系は同じく無理。


 では残った中で何ができるだろうかと考えたとき、やはりアニメやマンガやゲームにハマッている俺的には、やはりそっち系に関われる部活やサークルを志望するわけで。


 しかしこの大学のゲーム部やサークルは本当にガチの人たちが集まって切磋琢磨しているような感じなのでついて行ける気がしない。


 漫画アニメ研究会は結構絵を描く活動が多く、絵心は美術で赤点寸前だった俺には不可能だ。


 ここまでの絞り込みのハードルを越え、唯一自分の志望を叶えかつ足手まといにならなさそうだったのが、このノベルサークルだったのだ。


 幸いにも小説研究会とは一線を画しているこのサークルは主に、最近ではメジャーな存在になっているライトノベルやがちがちのファンタジー・SFなど、リアリティの感じる純文学とは違ったお話を中心に、執筆をする活動らしい。


 しかし、当然俺は、小説は愚かライトノベルも書いたことはない。未経験というヤツだ。


『初めてでも大丈夫! ノベルサークルであなただけが生み出せる物語をみんなに披露しませんか?』


 最初の部分の『初めてでも大丈夫!』という謳い文句に誘われ、このサークルの部室へとやってきてしまったわけだ。


 しかしよくよく聞くと、やはり普通の小説研究会とは違って、なんか外れた人たちが集まるサークルみたいな印象を持たれているらしく、部員も、先輩が10人程度しかいないらしい。


 しかし、先輩の話を聞くと、どうやら小さいサークルは小さいなりに楽しいところもあるという。そんなうわさ話に縋って、この部屋の前へたどり着いたわけだ。


「さて……」


 部室棟2階に存在する『のべさく』と書かれた怪しい部屋。


 あとこのなぜか鉄製の重そうな扉を越えればそこが、俺が大学デビューと共に選んでしまったサークルの聖地。


 深呼吸。


 よし、開ける!


 ――予想していなかった光景が目の前に広がった。


 部室棟とは聞いていたがちょっとしたコンピューター室ではないかと勘違いしそうになる。


 デスクが20個。5個横並びでそれが4行ある。

 

 そしてそのデスクの10個以上にデスクトップ型のパソコンが置いてあった。


 机の向きはすべて同じ方へと向かっていて、椅子に座れば。おのずと一番奥のホワイトボードが見えるようになっている。おそらく部長的な存在が全員に指示を出すときに使うのだろうと思う。


 パソコン教室か何かかな? と勘違いするほどの機械の量がここにあるのだ。


 そしてデスクはほとんどすべて埋まっていた。


 それらがすべて新入生であることは、ホワイトボードに、

「新入生、入会希望者! 好きなデスクに座るといいにゃ! 在会生! お前らの席は今日ねえから! 自分のパソコンで書けよな。会長より」

 という非常に乱暴な言葉を使っているメッセージがあったのだ。


 前3行はすべて席が埋まっていたので、空いていた後ろの席へと座った。


 既に後ろにも2人が座っていたので、その隣に座ることにした。


 とりあえず、何も告げずに席につこうとするが、そこで考える。


 ちょっと待て。


 これから同じサークルに入るかもしれないのだから今のうちに好感度を上げておくべきではないか。サークルでくらいぼっち回避をして、楽しい大学デビューをしたいなら、この場所で勇気を出さないでどうする。


「ど、ども」


 座ると同時に、同じ行に座っていた2人に話しかけた。


 一人は女性だった。もう大学生なのだから女子というのは失礼か。しかし、眼鏡をかけているにも拘わらず、とても活発そうに見える見た目だ。そしてもう一人は、とにかく逞しい体をした男。この見た目は運動部にしか見えないのだが、どうしてここにいるのだろうか。


「ういっす!」


 ほら、男の方は挨拶だけで威圧感あるー。


「こんちわー」


 対して女性の方はほわわんとした感じの挨拶だった。いや、これでは何の説明にもなっていないのだが、どうにも言葉には表し辛い、癒し系? と表することは間違いないだろうという声質だった。


 とりあえず席に着く。


 そこから会話はなかった。このままではせっかく挨拶をして突撃した意味がない。


 また何かを話すべきか。そう考えたところで時間が来てしまった。


 いつの間にか俺達新入生の前に立ち、ホワイトボードのメッセージを消している先輩と思われる女性が1人。


「よくきたにゃ! お前ら! おい、その先は地獄にゃぞ。と言われて長いのべさくへ。お前らが新入り希望かぁ?」


 テンションの高さと謎のキャラ付けがなされた会長に新入生一同唖然としている。もちろん俺もだ。


 ただ1人。


「おお、おもろ」


 隣の筋肉君がノリそうな勢いなのは、やはり運動部のハイテンションクオリティなのか。偏見かもしれないが。


「ウチは来るものは拒まない。だが、うちに正式加入をしたければまずは仮入部期間で結果を出して、デビューをつかみ取らなければならないにゃあ!」


 最初の挨拶そのままの勢いで、なんか大事な話がされそうな気がする。


「さて、説明会を始めよう。と思うが詳しいことは君たちの座るデスクにあるパソコンのトップに、新入生宛てというファイルがあるから後で見ておいてくれよな! ウチから君たちに言いたいことは一つだ。いいか? ここは小説を書く場所じゃない!」


 ええ?


「えー?」


 俺と隣の隣の癒し系女子同級生の2人が驚きで声をあげる。


 他のみんなに変な視線を向けられるが俺が変ということはないはずだ。だって、ここサークルって小説を書くサークルじゃないの?


「ほう、いいリアクションだ。新人君。だがね、我々は純粋な小説を書くのではない、このノベルサークルは小説研究会とは違って、ファンタジー・SF・ラブコメ等、純小説はちょっと難しそう……っていう者たちへの救済措置であり、君たちは巧みな文章を書くのではなく、いわば君たちは世界を創造する創造神になってもらうのだよ!」


 唐突に神になれと。


 今の俺にはそれがどういうことか分からない。


 いや、分かっている人間の方が少ないだろう。こんなとんでもないことを言う部長に果たしてついて行って構わないのだろうか?


 とても不安になる。


 部長を止められるものはここには存在しない。俺達を驚かせ続ける彼女はさらにとんでもないことを言い始めた!


「来るものは拒まないが、実績をあげないものに居場所はない。1年生の君たちには、夏の夏季学園祭に向けて作品を1つ書いてもらう!」

 

 いきなり?


 まだ書き方すら教わってないのに、急に言われても……。


「うちのサークルは基本的に月1回の定例会以外は自由活動だ。この部屋のパソコンを使って大いに書いてほしい。ちなみに兼部もありだ。この場所を自由な話をする部屋として使っても、部員同士でゲームをやっても構わない。他の人の迷惑にならない限りな! それでは、入会おめでとう! 以上!」


 なんとそれだけ言って部長はその場を後にした。


 思い切りがいい人だとは思うが、こんな雑な説明会はあるだろうか。


「大変なことになったなぁ……俺、小説なんて書いたことがないぞ……」


「私も……」


 隣のお2人さんも俺と同じ状況らしい。


 そこに新たな先輩の姿が。


「こんにちは3人とも」


 先ほどのとても威勢のいい方に比べて、凄く優しそうな人だ。


「これから3人の新人育成係をすることになった、琴音と言います。ことって呼んでね?」


 先ほどの部長ではこの先も不安と言うものだったが、この先輩なら大丈夫かな?


「じゃあ、早速、ペンネーム教えて? うちのサークルはペンネーム呼びがデフォルトなのよ」


 え?


 決まってねえ!


 そんな情けない俺に対し、隣の体育会系が、


「俺、マッスルで!」


 そしてまた隣の女子が、


「私、みかんで行きます。こと先輩」

 

 まさかの即答。


「君は?」


「俺は……その……」


「もしかして決まってないー? たぶん招待メールに、ペンネーム考えてきてくださいって書いてあったと思うけど……」


 何ぃ?


 ……本当だ。


 早速俺はしくじってしまった。


 当たりそうな先輩に早速悪印象を持たれてしまったかもしれない……。


「まあ、それは後で決めれば大丈夫よ。さて、とりあえず、君たちにはいろいろと教えてあげないとね。小説を書くのは初めてでしょ?」


 俺を含めみかんとマッスルの3人は、思いっきり首を縦に振る。


「なら、まずはそこからね。せっかく今日来てくれたから、早速今日、創れる場所まで創っちゃうっか?」


 先輩のお誘いを断るわけにもいかない。そもそも説明会は3時間という設定だったので、まだ予定時間はあまり余っている。断る理由はない。


 俺とみかんとマッスルのノベル作成が早速スタートした!

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