第19話 千秋楽

 多村が大家を訪ねた日の夜、会田安宏追悼公演は千秋楽を迎えた。柳田優治の死後、存在すら忘れられかけていた逢友社だったが、会田の訃報が宣伝効果を生み、小劇場とはいえ『復讐するは我になし』は全9公演の前売り券が完売。連日僅かな当日券を求めて客が列を作る盛況ぶりで幕を閉じた。

 逢友社にとっては柳田の死の直後、まだその名残が集客につながっていた頃以来の反響だった。


 SNS上に見られた『復讐するは我になし』の感想も、そのほとんどが称賛だった。

[逢友社初めて見たけどいい劇団]

[『復讐するは我になし』とにかく面白かった]

[次の舞台も絶対見に行く]

[捨てられた女の恨みがよく描かれていた]

[本妻の気持ちの変化がリアル]

[男の弱さが身につまされた]

等々。


[柳田優治の陰に隠れていた才能が日の目を見たのにもったいない]など脚本を書いた会田安宏の死を惜しむ声も散見された。


 中でも一番反響が大きかったのが主演の国村里沙だった。

[主役の子の演技が凄かった]

[新人とは思えない。オーラを感じた]

[国村さんの演技に鳥肌立った]

[国村里沙の次の舞台が早く観たい]

[今後の演劇界を背負って立つ逸材]

 と誉め言葉が並んだ。


 千秋楽公演後、舞台上に逢友社の団員が整列した。改めて死去した会田安宏に哀悼を捧げるとともに、会田の遺志を継ぎ、今後も逢友社は活動を続けていく、新たな主宰には滝沢淳が就任する、と報告がなされた。


 滝沢は舞台上で主宰就任に当たっての所信を表明した。そして主宰としての最初の仕事として観客に向けて発表を行った。


 逢友社は来年結成20周年を迎える。新生逢友社の第一弾公演は来年早々に結成20周年記念公演として執り行う。

 その演目が『別れの哀殺』に決定した。


 客席からどよめきが起こり、続いて盛大な拍手が送られた。とりわけ柳田の死後も足繁く公演に通う逢友社のファンには感慨一入で、涙を流す姿も見られた。

 長らく低迷していた逢友社の再興への息吹が感じられるようだった。



 翌日インターネットニュースに僅かながらこの件が取り上げられていた。

「やっぱりな」

 スマートフォンで記事を見て多村はつぶやいた。多村が見越した通りの展開だった。


 結成20周年を迎える来年に記念公演を行うことは公式サイトですでに告知されていた。それにふさわしいのは、初演から10年の節目にもあたる『別れの哀殺』の他は考えられない。柳田の死によって中止に追い込まれた15周年記念公演の雪辱を果たす意味においてもだ。


 会田安宏にとっては『別れの哀殺』は汚点のようなもので、会田が存命なら叶わなかっただろう。会田の死によってもたらされた再演に間違いなかった。


 この筋書きを描いているのは、新しい主宰者・滝沢淳で間違いない。すべては滝沢の思惑通りに進んでいる。

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